不妊治療と仕事の両立|川崎市の信長行政書士事務所
少子化問題は、日本では国家規模の問題として強く意識されています。今回は、本年4月23日に厚生労働省より公表された、不妊治療と仕事の両立ができる職場環境整備についての要請について、見ていきたいと思います。
不妊治療
不妊治療はいまとなっては、ある程度浸透している用語となっていますが、まだまだ正確には認識されていないと思われます。公益社団法人日本産婦人科医会のホームページでは、不妊症を次のように説明してます。
日本産科婦人科学会編集の産科婦人科用語集では不妊症を、「生殖年令の男女が妊娠を希望し、ある期間避妊事すること無く性交渉をおこなっているのにもかかわらず、妊娠の成立を見ない場合を不妊といい、妊娠を希望し医学的治療を必要とする場合」と定義づけている。
情報元:公益社団法人日本産婦人科医会HP「6.不妊症の定義・分類・治療法」(https://www.jaog.or.jp/lecture/6) 閲覧日:2021年4月23日(17時45分)
つまり、
- 生殖年令の男女が妊娠を希望し、
- ある期間避妊事すること無く性交渉をおこなっているのにもかかわらず、
- 妊娠の成立を見ない場合
を不妊といい、これに対して妊娠を希望し医学的治療を必要とする場合に行う治療を「不妊治療」ということになります。ちなみに、不妊症は医学的には男女別で分類されているようですが、社会的には男女を問うものではないことは、周知されてきています。
不妊治療と仕事の両立における問題点
不妊治療と仕事の両立を困難としている要因は、
- 通院回数の多さ、急に通院しなければならないなどの性質があること。
- 不妊治療を受ける精神面での負担が大きいこと。
- 職場内で不妊や不妊治療に対する認識が浸透していないこと。
などが挙げられます。このため政府としては、事業主、上司や同僚の理解の促進や、不妊治療を受けやすい職場環境の整備が重要であるとしています。
次世代育成支援対策推進法
我が国では、「次世代育成支援対策推進法(平成15年法律第120号)」という法律があります。これは、我が国における
- 急速な少子化の進行
- 家庭及び地域を取り巻く環境の変化
をうけて、これらに関する基本理念を定め、
- 国
- 地方公共団体
- 事業主
- 国民
の責務を明らかにするとともに、必要な事項を定めることにより、「次世代育成支援対策」を推進し、次代の社会を担う子どもが健やかに生まれ、かつ、育成される社会の形成に資することを目的としています(法第1条)。
ちなみに、「次世代育成支援対策」とは、次代の社会を担う子どもを育成し、又は育成しようとする家庭に対する支援その他の次代の社会を担う子どもが健やかに生まれ、かつ、育成される環境の整備のための国若しくは地方公共団体が講ずる施策又は事業主が行う雇用環境の整備その他の取組をいいます(法第2条)。
つまり、国、地方公共団体又は事業主が行う取組を推進するのがこの法律です。そして、この法律に基づいて今回、厚生労働省が各団体に要請したのが、不妊治療と仕事の両立ができる職場環境整備です。
不妊治療と仕事の両立ができる職場環境整備等に向けた取組に関する要請
政府は、経団連、日本商工会議所、全国中小企業団体中央会、全国商工会連合会に対して、次の要請をしました。
- 不妊治療に係る実態や職場で配慮すべきこと(休暇の取得、プライバシーの保護や相談対応等)などについて、企業内での理解促進に努めること。
- 通院に必要な時間を確保しやすいよう半日・時間単位で取得できる年次有給休暇制度、不妊治療にも対応できる多目的な特別休暇制度、時差出勤やフレックスタイム制等の柔軟な働き方、不妊治療のための特別休暇制度などの導入を検討すること。
- 上記2.の際には、不妊治療を受けている労働者の中にはそのことを職場に知られたくない方がいることにも配慮し、多様な選択肢を用意することが望ましいこと。
もっとも、要請の段階ですから、法的拘束力は現時点ではあまり期待できません。ですので、政府はこれらの整備をした企業に対し、助成金(「両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)」)を用意することにより、事業者がこれらの整備をすることを期待しています。
助成金(「両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)」)
支援額
2種類あり、それぞれ28.5万円(生産性要件を満たした場合には36万円)が支給されます。
支援対象となる事業主
不妊治療のために利用可能な休暇制度・両立支援制度について、次のいずれか又は複数の制度について、利用しやすい環境整備に取り組み、不妊治療を行う労働者に休暇制度・両立支援制度を利用させた中小企業事業主
- 不妊治療のための休暇制度
- 所定外労働制限制度
- 時差出勤制度
- 短時間勤務制度
- フレックスタイム制
- テレワーク
支給要件
次の全ての条件を満たすことが必要です。
- 不妊治療と仕事の両立のための社内ニーズ調査の実施
- 整備した上記1.~6.の制度について、労働協約又は就業規則への規定及び周知
- 不妊治療を行う労働者の相談に対応し、支援する「両立支援担当者」の選任
- 「両立支援担当者」が不妊治療を行う労働者のために「不妊治療両立支援プラン」を策定
そして、上記1.~4.までをすべて満たし、最初の労働者が、不妊治療のための休暇制度・両立支援制度を合計5日(回)利用した場合に28.5万円が、さらに労働者に不妊治療休暇制度を20日以上連続して取得させ、原職等に復帰させ3か月以上継続勤務させた場合に追加で28.5万円がそれぞれもらえます。
まとめ
以上のとおり、助成金や補助金はよく調べると結構あります。また、このように政府が公表した後すぐに対応し、助成金を獲得することは、ポジティブニュースとして広報にも役立てられますから、企業価値を高めるためのよい機会となるでしょう。
そして上記助成金に加え、不妊治療のための休暇導入には、「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」も活用できます。詳しくはこちら(厚生労働省リーフレット)をご覧ください。厚生労働省のホームページへ飛びます。
最後に、少子化問題といわれていますが、国民は子供が欲しくないというわけではないというアンケート結果もあるそうです。そうすると、事業者としてはそのような環境を整備し、少子化対策をすることによって、人材を確保できるという面でのメリットもあるでしょう。助成金、補助金には行政機関との間で手続が必要な場合がありますから、専門家に問い合わせるとよいと思います。ちなみに、先ほど述べました支給要件のうち、就業規則に関するものは社会保険労務士の独占業務とされています。この辺についてもご興味がある方は、お問い合わせいただければお答えいたします。助成金や補助金は単独で行うと手間がかかりますが、専門家に依頼すればその労力は軽減されますので、ご検討されるのもよいでしょう。
個人の方は、「結局事業者の問題なのか・・・」と諦めずに、まずは当事務所にご相談いただくのもよいかもしれません。お勤めの会社にご提案させていただくよいきっかけとなるでしょう。なおその際、当事務所にご相談された事実は漏れません。なぜなら、行政書士には法律上、守秘義務が課されているからです。その点は、口が滑るということもありませんので、ご安心ください。
以上、今回は本年4月23日に厚生労働省から公表された不妊治療と仕事の両立について、見ていきました。身近な問題や社会問題については、法律により行政機関が何らかの対策をしていることが多いです。助成金、補助金、相談窓口などを探して、有効活用しましょう。法律は、知っている人に有利という性質があります。
参考資料
- 厚生労働省ホームページ「不妊治療と仕事の両立のために」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14408.html)
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