特定商取引法の執行状況(2020年度)から読み取る。|川崎市の信長行政書士事務所

query_builder 2021/04/30
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 年度も変わって落ち着きましたので、特定商取引法の前年度の執行状況を見てみましょう。

特定商取引法とは

 特定商取引法とは、被害の多い次の7種類の取引について定めている法律です。


  1. 訪問販売 ⇒ いわゆる押し売りです。
  2. 通信販売 ⇒ ネット通販です。
  3. 電話勧誘販売 ⇒ いわゆる迷惑電話です。
  4. 連鎖販売 ⇒ いわゆるマルチです。
  5. 特定継続的役務提供 ⇒ エステや語学教室などです。
  6. 業務提供誘引販売 ⇒ いわゆるモニター商法です。
  7. 訪問購入 ⇒ 買取りにくるやつです。


これら7種類の取引は、いきなり押しかけてきたり、長い期間高い金をかけたり、儲かるなどと言って取引するため、被害が多いです。そのため、特定商取引法という法律である程度整備しています。ちなみに、この特定商取引は、行政庁から登録や許認可を受けたり、行政庁に届出を出したりすることなく営業活動ができます。ですので、消費者がネットで調べてもあんまり評判が検索できなかったりするため、自ら情報収集がしにくいです。逆に事業者からすれば、行政庁への手続が少なく、知らず知らずのうちに特定商取引法に違反して、業務停止を受けてしまったりするようです。

特定商取引法の摘発件数

 特定商取引法の2020年度の執行状況は下図のとおりです。

どういうことかというと、訪問販売が圧倒的に多いです。


訪問販売

 いきなり家に押しかけられ何時間も居座られ、契約をしてしまうとか、勧誘であることを告げないで調子を合わせて、知らず知らずのうちに契約に持ち込むとかが典型パターンです。下は、訪問販売での違反内容の累計です。77件を集計すると、ざっと23通りあります(重複もありますが。)ので、見てください。主に、


  • 勧誘目的等不明示
  • 契約書面不備記載
  • 氏名等の明示義務違反(勧誘目的不明示)
  • 氏名等不明示(勧誘目的不明示)


が目に付くと思います。これらは、小さなことと思われがちですが、がっつり法令違反です。そうすると、クーリング・オフができたり、事業者は事業停止になったりします。消費者目線でいえば、例えば、交付された書面に担当者の欄に苗字しかないとかいうときは、チャンスです。クーリング・オフができる期間が長くなったりします。事業者目線では、従業員が正確に法律の求める要件を満たしているか(指示が漏れなく従業員に届いているか、軽いことと勝手に判断していないか)を確認することが肝要です。


・・・家庭教師の派遣に係る役務提供契約を締結した消費者に対し、契約締結担当者の姓のみを記載した契約書面を交付していました。(概要書面及び契約書面の交付義務違反(記載不備))
消費者庁「特定商取引法違反の特定継続的役務提供事業者に対する指示について」(平成30年2月16日公表) (太字下線は筆者追記)https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_transaction/release/2017/pdf/release_180216_0001.pdf



勧誘目的等の明示義務に違反する行為、書面交付義務に違反する行為
勧誘目的等不明示、契約書面記載不備、役務の提供を受ける者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものについての不実告知
勧誘目的等不明示、再勧誘、書面記載不備、迷惑勧誘
勧誘目的不明示、再勧誘、契約書面記載不備、契約の締結を必要とする事情に関する事項についての不実告知、迷惑解除妨害
勧誘目的不明示、迷惑勧誘、迷惑解除妨害
契約書面不交付
契約書面不備記載、不実を告げる勧誘、債務履行遅延
氏名等の明示義務に違反する行為(役務提供事業者の名称、勧誘目的及び役務の種類の不明示)、契約書面の交付義務に違反する行為、契約の解除に関する事項につき不実のことを告げる行為
氏名等の明示義務違反(勧誘目的不明示)、契約の締結を必要とする事情に関することについての不実告知
10氏名等の明示義務違反(勧誘目的不明示)、契約の締結を必要とする事情に関することについての不実告知、迷惑勧誘
11氏名等の明示義務違反(勧誘目的不明示)、再勧誘、書面の交付義務違反(記載不備)、威迫・困惑、迷惑勧誘
12氏名等の明示義務違反(氏名・勧誘目的不明示)、書面の交付義務違反(記載不備)、契約の締結を必要とする事情に関すること及び役務の提供を受ける者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものについての不実告知
13氏名等の明示義務違反(事業者の名称・勧誘目的不明示)、書面の交付義務違反(記載不備)
14氏名等の明示義務違反(事業者の名称及び勧誘目的の不明示)、再勧誘、契約書面の交付義務違反(記載不備) 、迷惑解除妨害
15氏名等の明示義務違反(販売業者の名称、勧誘目的及び商品の種類の不明示)、適合性原則違反、支払能力虚偽申告教唆
16氏名等の明示義務違反(販売業者の名称、勧誘目的及び役務の種類の不明示)、契約の解除に関する事項についての不実告知、威迫・困惑、迷惑解除妨害
17氏名等不明示(勧誘目的不明示)、契約書面記載不備
18氏名等不明示(勧誘目的不明示)、書面の交付義務違反(記載不備)
19氏名等不明示(勧誘目的不明示)、迷惑勧誘
20氏名等不明示、契約書面の交付義務違反(記載不備)、債務不履行
21氏名等不明示、判断に影響を及ぼす事項についての事実不告知
22書面交付義務違反(不交付・記載不備)
23役務の内容についての不実告知、役務の提供を受ける者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものについての不実告知



通信販売

 次に多いのが、通信販売です。これは、累計すると広告表示について指摘が多いです。


誇大広告等(虚偽表示)
顧客の意に反して通信販売に係る売買契約の申込みをさせようとする行為
広告の表示義務に違反する行為(住所)、誇大広告等(虚偽表示)
広告の表示義務に違反する行為(住所及び電話番号)、誇大広告等(虚偽表示)

要するに、普通の商品なのにあたかも、「すごい効果がありますよ!」というのは、法の認めるところではありません。



通信販売はクーリング・オフできない?

 通信販売には、「クーリング・オフ」の制度はありません。

 「え、じゃあ騙されても取消したりできないの?」と思うかもしれませんが、これが法律のややこしいところです。

 「特定商取引法によるクーリング・オフ」は、通信販売については制度がないのでできませんが、例えば「消費者契約法による契約の取消し」や「民法による契約の取消し」はできます。もっと知りたい!という方は、お気軽にお問い合わせください。


通信販売で納得のいかない買い物をしてしまったら。

 通信販売で返品をする場合には、特別な約束があれば、それに従うのが原則という点に注意が必要です。例えば、「30日以内は返品に応じます。」などの記載があれば、このような特別な約束に従います。なお、このような特別な約束がなければ、商品を受け取った日を含めて8日以内であれば返品可能ですが、返品費用は購入者の負担です。通信販売は、よく説明を読み、理解してから購入しましょう。


特定商取引法は条文も複雑

 特定商取引法を理解しようとするにも、条文が複雑怪奇で、勉強するのも一苦労です。消費者の方々は、専門家へ相談してください。例えば、消費者ホットライン、すなわち電話番号「188」(イヤヤ!)に電話をかけると、相談窓口を案内してくれるダイヤルにつながります。弁護士や司法書士、行政書士などの専門家はちょっとお堅い感じがしてちょっと・・・という方は、まずはこちらに電話するのもおすすめです。

 ただし、やはり行政機関ですから、中立性が強いです。これは、相談を受ける現場相談員の方々も悩みの種の一つだそうです。「相談員の方はちょっと冷たいよ!」というお声もたまに聞きますが、制度ですからある意味しょうがないところがあります。

 そこで次に、士業が役に立ちます。このとき、消費者関連法に強い専門家を選んでください。なぜなら、消費者関連法は行政と企業と消費者の三角関係が複雑に絡み合うという特徴があるので、専門知識が必要だからです。事業者の方も消費者の方も、お困りの際はご相談されるのが一番早いです。特に、特定商取引法は複雑な割には、知っていると役立つものが多くあります。一人で迷わず、困ったらお近くの方へ相談しましょう。

 特定商取引法の2020年度の執行状況を見てきました。コロナの影響により、昨今では通信販売の相談件数が増えているとのことです。特に、定期販売(初回980円!…と思ったら、2か月目は5,980円!?)の被害が増えているとの情報があります。時代の流れと共に、商売の方法も巧みに変わりますから、事業者の方も消費者の方も、十分気を付けていきましょう。

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