死後事務委任契約について②

query_builder 2021/09/07
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 先日のブログで死後事務委任契約について触れましたが、今回はもう少し掘り下げてみていきます。死後事務委任契約とは文字通り、死後の事務を委任する契約であり、これが最高裁(最判平成4年9月22日(金法1358号55頁))で下図のように争われたことがあります。何が問題となったのでしょう?



民法653条との関係

民法653条は強行規定か任意規定か



 民法653条は「委任は、次に掲げる事由によって終了する。」とし、同条1号には「委任者又は受任者の死亡」とあります。したがって、民法によればAが死んだ時点で、死後事務委任契約は終了することとなります。



 しかしながら、法律には「強行規定」と「任意規定」があります。

 強行規定とは、契約によっても排除できない規定のことです。例えば、「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。」と定める民法90条の規定があります。これを「公序良俗に反する行為でも有効にしようね」という合意があっても成り立たないことは明白です。

 他方、任意規定は契約によって排除することが可能です。

 さて、ここで立ち返るに「委任は、委任者の死亡によって終了する。」とする民法653条1号の規定は、強行規定か任意規定かという問題が生じます。

最高裁の判断は



 最高裁はこの問題について「自己の死後の事務を含めた法律行為等の委任契約がAと上告人(Y)との間に成立したとの原審の認定は,当然に,委任者Aの死亡によっても右契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨のものというべく,民法六五三条の法意がかかる合意の効力を否定するものでないことは疑いを容れないところである」。



 つまり、最高裁は次のように整理しています。


  1. 死後事務委任契約が締結されると、それは当然、民法653条の規定を排除する合意を含んでいる。
  2. 民法653条は、民法653条の規定を排除する合意によって排除できる。


 したがって、第一の問題である「民法653条1号は強行規定か任意規定か」という答えは、「民法653条1号は任意規定である」と整理されました。

民法651条1項との関係

死後事務委任契約を相続した者は契約を解除できるのか



 さて、民法653条1号は任意規定であり、死後事務委任契約は可能であることが最高裁によって示されました。次の問題は、死亡により相続(民§896)した死後事務委任契約と民法651条1項との関係です。すなわち「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。」とする条文との関係です。


 これについては、これが直接争われた裁判例はないようですが、類似するものとして、東京高裁判平成21年12月21日(判時2073号32頁)があります。この判旨として、「委任者の死亡後における事務処理を依頼する旨の委任契約においては, 委任者は,自己の死亡後に契約に従って事務が履行がされることを想定して契約を締結しているのであるから,その契約内容が不明確又は実現困難であったり,委任者の地位を承継した者にとって履行負担が加重であるなど契約を履行させることが不合理と認められる特段の事情がない限り,委任者の地位の承継者が委任契約を解除して終了させることを許さない合意をも包含する趣旨と解することが相当である」としました。

 つまり、死後事務委任契約は、特段の事情がない限り、「委任契約を解除して終了させることを許さない」旨の合意も含まれていると解釈するのが相当ということです。

 したがって、(相続の場合に直接影響があるかは明らかではありませんが)承継人が死後事務委任契約を、民法651条1項に「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。」とあるからといって、死後事務委任契約を解除するのには一定の制約があると考えられるでしょう。

遺言制度の潜脱について

裁判例はまだない



 遺言制度の潜脱については、裁判例は未だないようです。しかしながら以上までの判例や、また、社会的にも高齢化や無縁社会などによって死後事務の件数が増えていることも考えると、遺言制度を没却しうるという一事のみをもって、死後事務委任契約を否定することはできないと考えています。


 ここにいう「死後事務」というのは、横須賀市のコメントから、特に孤独死に対する死後の埋葬等が深刻な問題となっていることがうかがえます。すなわち、横須賀市における「死後事務委任契約」の活用という論文では、次の問いと回答があります。


◆質問12 このような事業は普及を図るべきであるとお考えでしょうか?
【回答】
 当然である。家族・親族に頼れない者が減るならいざ知らず、2040年に向けて増え続け、毎年の死者の割合も現在のエリア人口の1.2%から1.9%になることが確実である。現在、このような事業を行っていない行政は、将来ほぼ確実に引き取り手の無い遺体、引き取り手の無い遺骨になるだろうと自ら推測している市民=墓地埋葬法適用見込みの市民に対し、墓地埋葬法による行政処分がいかなるものかも知らせず、墓があっても無くても、当事者の希望すら聞かず、死亡後は、まるで当然のように墓地埋葬法9条を適用し、その費用は他の住民の租税を濫用しているだ けである。
 これは、住民が、個々人が家庭ではできない課題の解決について行政に租税を納め事業を付託するという、いわば行政の根源的価値に係る大問題であると確信している。
 なお、社会福祉協議会が公正証書遺言・遺言執行者という方法で行っている終活支援の方法では、結局料金が高額となり、低所得者の尊厳の救済には繋がらないと思量する。
谷口聡「横須賀市における「死後事務委任契約」の活用」(『地域政策研究』(高崎経済大学地域政策学会) 第 23 巻 第4号 2021年3月 75頁〜96頁)92頁より引用


 墓地埋葬法とは「墓地、埋葬等に関する法律(昭和23年5月31日法律第48号)」のことであり、9条は「死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行わなければならない。」とされています。市町村長が行うということは、住民税から埋葬費が支出されますから、横須賀市ではこれに対して死後事務委任契約を活用することで、適正な財政管理を行っているとのことです。

死後事務委任契約のまとめ

まとめ



 遺言書の法定遺言事項のみでは達成できない事項も、死後事務委任契約を活用することによって、一定の範囲で死後の整理をすることが可能であると考えられています。また、行政書士の観点からは、横須賀市が行っているように死後事務委任契約を活用して適正な財政管理を図っているという点は、興味深いです。


 なぜなら、行政書士は、行政に関する手続の円滑な実施に寄与するとともに国民の利便に資し、もつて国民の権利利益の実現に資することを目的としています(行政書士法1条)が、これは国民側の行政手続の代理等のみならず、負担が増え続けている行政側の書類作成等を担うことにより、行政に関する手続の円滑な実施に寄与することもできると考えているからです。死後事務委任契約などもその一つでしょう。

 また、先日公表したプレスリリースでも、例えば教育行政の中で、教育専門家である教職員と連携して、学校教育法施行規則44条4項に定める教育計画を作成したりなど、行政書士として協力できる部分というのはあると思っています。教職員の方々が過大な職務を負担することによって、子どもたちとの連携が取れずにいじめなどが起きるという問題が指摘されていることからすれば、行政書士がこれら教職員に課されている過大な職務を一部負担し、よりよい学校教育を実現するなどもあっていいのではないかと考えています。

 

 少し脱線しましたが、終活をする際には、死後事務委任契約についても検討の一つに加えてみると、円滑な死後の事務処理ができるかもしれません。

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