消費者庁が公表した検討会の報告書について③

query_builder 2021/09/21
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 前回のブログに引き続き、消費者契約に関する検討会の第三弾です。第三弾では、不当条項について取り上げます。不当条項とは、消費者にとって不当な条項です。これは、例えばサービスの利用規約や保険約款などのような、いわゆる民法第548条の2にいう定型約款に、事業者によって盛り込まれることが多いものです。


 そうすると、利用規約などの定型約款を読まない人にとっては、トラブルが起きたときに不意打ち的に当該条項によって、救済の途を絶たれることとなります。下図は検索サービスの利用規約があることを知っているかという質問ですが、知っていると回答したのは実に27.7%です。したがって、約70%の方々は、不当条項の危険にさらされることとなります。

公正取引委員会「デジタル広告の取引実態に関する中間報告書」(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2020/apr/digital/200428betten.pdf)80頁より引用

不当条項について

検討の経緯


 不当条項はこれまでに、次の規定が創設されています。


  • 消費者の解除権を放棄させたり、事業者が解除権の有無を決める条項は、無効である。(消契法§8の2)
  • 消費者が後見、保佐、補助の開始を受けたことで、事業者に解除権が発生するとする条項は、無効である。(消契法§8の3)
  • 消費者が何もしないことを理由に、新たな契約の申込みまたは承諾をしたものとする条項は、無効である。(消契法§10前段)

 上記の規定は、ほかの法律に比べると、比較的使いやすい法律であるとして、実務家(弁護士)からは受け入れられているそうです。

サルベージ条項


 さて、不当条項でいま大きな問題となっているのは、「サルベージ条項」です。サルベージとは、沈没、転覆、座礁、座洲した船を引き揚げることをいいます。サルベージ条項とは、事業者が設定した条項が、裁判所等によって無効とされた場合に、これを裁判所等によっても無効とされない範囲に限定する旨を定める条項です。


 例えば、次の太字下線部のようなものです。


適用法により許可される最大範囲において、権利者または代理店は、いかなる場合でも、特別的、偶発的、懲罰的、間接的または結果的ないかなる損害(利益、秘密情報またはその他の情報の損失、ビジネスの中断、プライバシーの喪失、 データまたはプログラムの破損、損害および損失、法的義務、誠実義務または合理的な注意義務の違反、過失、経済的損失およびその他金銭的な損失またはその他の損失による損害を含むがこれに限定されない)の可能性について通知されていたとしても、その損害の責任を負いません。
消費者庁「不当条項について」(令和2年7月16日)10頁より引用https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/meeting_materials/assets/consumer_system_cms101_200716_02.pdf


 このほかにも「法律上許される限り」などの文言を付した条項も散見されます。これの何が問題かというと、サルベージ条項によって事業者の目的(本当に法律上許される限り有効となること。)が達成されるわけではありませんが、消費者にとって、真に有効な範囲が不明確となる点です。


 そうすると、トラブルになったときに損害賠償請求などの自己の権利を行使する際に、その範囲を確定することが困難となってしまい、消費者の権利の実現を妨げることとなってしまいます。


 サルベージ条項については、その検討について、取り扱い方については議論が激しく交わされているようであり、どのように具体化されるかは要注意となります。

所有権等を放棄するものとみなす条項


 次に、不当条項の検討で取り上げられているのは、所有権等を放棄するものとみなす条項です。これは、例えば、借りたアパートに物を置いていったことをもって、その所有権を放棄するものとみなすといったものや、消費者が事業者に情報を送付したことをもって、権利を放棄したものとみなすというような条項があります。


 これは、アパートを貸した側からすれば、置いていったものを早く処理したいという要請があったり、また、事業者からしてみれば送られた情報の権利関係を早期に確定したいという要請があります。そして、そのようなことを実現するために所有権等を放棄するものとみなす条項を盛り込み、その説明として、黙示の意思表示(ざっくり述べると、発言できるのに発言しなかったんだから、それは認めるということだよねということ。)があったというような説明がなされます。


 しかし、実際には意思表示をしていないのですから、あまりこれが横行したり濫用されたりすると、法治上望ましくないため、そのような条項は不当ではないか?という議論がなされています。


 これについては、消契法第10条前段で処理できるという意見や、新たに規定するために法改正をすべきだという意見が交わされているようです。

消費者の解除権の行使を制限する条項


 次に、消費者の解除権の行使を制限する条項の取り扱いが検討されています。例えば、電気通信回線の利用規約等において、電話や店舗でのみ解除を受け付けるとか、あるいは、予備校では中途解約をするには診断書を提出しろといった条項です。


 このような条項の存在する意義は、電気通信回線では本人確認を慎重に行いたいという要請などが挙げられています。


 しかし、解除権は、当事者を契約関係から解放するための、契約から発生する重要な権利ですから、これの行使を妨げるというのは、極力避けなければなりません。


 これに対しては法による規制のほかに、そもそも事業者が情報提供や、解除権を行使しやすい状況を作り上げるべきという意見もあります。例えば、電話が一向につながらない環境を是正するとか、ホームページ上で解除の方法についてわかりやすく表示すべきというようなことです。

まとめ

不当条項のまとめ


 不当条項は、事業者側の要請を実現する効果もある一方で、消費者の権利の行使を阻害する効果も認められますから、その調整は容易ではありません。

 

 この場合においては、法規制によって当該条項に法の適用を施すもののほか、事業者の事業活動に対してけん制をかける方法なども提案されており、興味深いところであります。


 特に、後者が実現されるとなると、事業活動において大きな影響(ホームページの改変や環境の整備など。)を及ぼしますから、引き続き今後の動きには注意が必要でしょう。

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