対日相互審査報告書の概要について②
さて、前回のブログでは、マネー・ローンダリングとFATFについての若干の説明を行いました。今回は、そのFATFの対日相互審査報告書で挙げられた主な評価結果に踏み込んでいきたいと思います。
a)主要なリスクへの理解と改善の余地の可能性について
まず、日本は、これまで実施してきた多くの分析に基づいてマネー・ローンダリングとテロ資金供与の主要なリスクをよく理解していると述べられています。
他方、国のリスク評価やその他の評価については、多くの場面で改善の余地があるとされています。
特に、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の政策を策定するために、より一層の連携が求められることが指摘されています。
これを受けて政府は、政府一体となって強力に対策を進めるべく、警察庁と財務省を共同議長とする「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策政策会議」を設置するとともに、今後3年間の行動計画を策定しました。
3年間の計画には、
- マネロン・テロ資金供与・拡散金融に係るリスク認識・協調
- 金融機関及び暗号資産交換業者によるマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策及び監督
- 特定非金融業者及び職業専門家によるマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策及び監督
- 法人、信託の悪用防止
- マネロン・テロ資金供与の検査及び訴追等
- 資産凍結及びNPO
が挙げられています。これについては、また後日機会があれば取り上げたいと思います。
結論としては、縦型社会の政府がまた横並びの組織を新たに立ち上げる可能性があるという点でしょう。
b)最近導入されたマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の不理解
大規模銀行や資金移動業者は、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与リスクについて適切に理解されていると評されている一方、その他の金融機関においては、その理解が及んでいないとされています。
特に、「最近導入・変更されたマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に係る義務について十分な理解を有しておらず、これらの新しい義務を履行するための明確な期限を設定していない。」ことが挙げられています。
ここにいう「最近導入・変更されたマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策」とは、令和3年3月5日に金融庁が公表した「金融活動作業部会(FATF)による 「リスクベース・アプローチによる監督に関するガイダンス」の公表」(https://www.fsa.go.jp/inter/etc/20210305.html。金融庁のホームページに飛びます。)を指しているものと考えます。
リスクベースアプローチとは、FATFが監督上特に重視しているマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の手法です。どういうものかというと、
- リスクを特定し、
- それを評価し、
- 評価したリスクに応じた措置を講じる
というものです。これを実施することをFATFは強く求めています。
または「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策 に関するガイドライン」(https://www.fsa.go.jp/common/law/amlcft/2021_amlcft_guidelines.pdf。金融庁のホームページに飛びます。)を指しているとも考えられますが、いずれにせよ期限を設けていない点を重点的に指摘されています。
これを受けて、政府が今後3年間の行動計画を策定したことは、前述のとおりです。
c)リスクベースアプローチは初期段階
リスクベースアプローチの運用は、金融庁を含め依然として初期段階にあり、また、金融庁を含む監督当局は、金融機関に対する効果的かつ抑止力のある一連の制裁措置を活用していないと指摘しています。
「制裁措置を活用していない」という(仮訳といえども)表現が使われているということは、「法律は準備があるのに」とFATFは言いたいのだと思います。これを受けて、行政処分の件数を増やすのか否か。ただ、日本の行政法規の中ではなかなか難しいのではと考えます。
また、指定非金融業者及び職業専門家の監督当局は、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の理解が限定的であって、リスクベースアプローチによる監督を実施していないことも指摘されています。
職業専門家というのは、おそらく弁護士や司法書士、我々行政書士のことを指していると思われます。我々も会社設立の際などには、特定事業者として犯罪収益移転防止法上、取引時確認義務が課されています。しかし、金融機関などのレベルと比べると、行われていないのではというのが実体感としてあることからすれば、今後、どのように対応するのか注目です。
このとき、例えば行政書士であれば総務省が監督当局に当たるのか、はたまた行政書士会が監督当局に当たるのかなどといった問題もありますから、我々としても関係ない話ではないだろうと考えています。
d)会社を支配している者を特定すべし
先ほど述べたように、金融機関のほかに職業専門家なども、会社設立などの場合には取引時確認を行う義務があります。これは、会社の実質的支配者を把握しなければならないことも要因の一つとしてあります。
会社は、いわゆる社長が支配者とは限りません。特に、株式会社であれば株主がどういう者なのかという点まで把握しなければ、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策が効果を発揮しないとされています。
これについては、信託に対して透明性に課題があるとされています。
e)金融インテリジェンスを資産の追跡に活用すべし
金融インテリジェンスとは、国家の安全保障のために、例えば金融庁などにより、要求・収集・分析され、政策決定者に提供されるインテリジェンス(知識)とされています。
日本ではこれがマネー・ローンダリング及びテロ資金供与の操作をするために広く作成され、また、定期的に活用されていると評価されています。ただし、法執行機関(おそらく捜査機関)は、被疑者の特定に活用してはいるものの、資産のついて気にこれを活用するよう更なる強化が求められるとされています。
つまり、逮捕には活用しているものの、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与に利用された金銭の没収のためには使われていないということを言いたいのだと思います。
これによって捜査の手法が変わるのか(一般市民にはあまり影響はないと思いますが)注目です。
小括
今回は評価内容の10項目5項目を取り上げてみました。これを見てみると、日本には課題が残されていることが明らかであり、また、これに期限を付してどの時期までに実現するかが問われているといえるでしょう。
少なからず事業者にも影響を及ぼすと思われるFATFの対日相互審査の結果ですが、急速に進むというよりは段階を経てという流れになると思うので、しっかりと動向を注視していくことが肝心だと思います。
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