対日相互審査報告書の概要について④
さて、前回のブログまでは、FATFの対日相互審査報告書の概要について触れてきました。世間や新聞では、「日本は不合格である」という烙印が押されていますが、仮訳とはいえ中身を見てみると、そこまでの酷評が下ったわけではない気がします。
要するに、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策について、
- 日本は概ね枠組みとしてはできており、中には密に連携が取れている部分がある。
- 最先端の部門については深度の深い理解がされているが、それが末端までは正しく行き渡っていない。
- NPOなどがマネー・ローンダリングに巻き込まれるおそれが大いにある。
という点が、我々国民や市民にとって影響のある部分であり、かつ、重要な報告として挙げられるでしょう。そのほかの法執行機関において法定刑が足りないなどについては、マネー・ローンダリングをする人以外はあまり関係ないと思います。
<参考>
金融庁「FATF(金融活動作業部会)による 第4次対日相互審査報告書の公表について」(https://www.fsa.go.jp/inter/etc/20210830/20210830.html)
優先して取り組むべき行動
マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の理解の促進
金融機関・暗号資産交換業者・職業専門家が、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策を理解し、これらを導入・実施するように取り組むべきとされています。
具体的には、取引先ごとのリスク評価の導入・実施、リスクベースでの継続的な顧客管理・取引のモニタリング、資産凍結措置の実施、実質的支配者情報の収集と保持です。
この点について、例えば中小企業や個人事業主の方にとっては、地銀などから融資を受ける際には、今まで以上に厳しい審査が施されるかもしれないという点があります。
最近では雇用契約のみならず業務委託を選択する事業者の方が増えています。また、これに伴ってクラウドソーシング(不特定の者へ業務委託する方法)が活用される場合もあります。ちょっとデータが古いですが、クラウドワークスというサービス会員数の図を見ると、その会員数は明らかに増えています。
総務省「平成30年版情報通信白書 第1部 特集 人口減少時代のICTによる持続的成長」(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd144420.html)より引用
ただしこの場合、ほとんどが非対面で取引されていますから、そこには反社会的勢力が紛れ込んでいる可能性も否定できません。そうすると、クラウドソーシングを多く活用している事業者の方は、採用時にそのリスクを排除するような体制を確保しておくことが求められるようになる可能性があります。
今後、どのような改訂がなされるかに注目が必要です。
リスクベースでの強化
リスクベースでのマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の監督が強化されます。これは、監督官庁がオフサイト・モニタリング(一般に、報告などを求める方法により監督する手法であって、立入調査を行わない。)とオンサイト・モニタリング(立入調査を行う。)の組み合わせについて、その頻度・包括性を強化することや、抑止力のある行政処分・是正措置が適用されることを掲げています。
オフサイト・モニタリングについては、特に許認可を受けなければならない事業者の方に対して、負担がかかるかもしれません。特に、金商法に基づく登録を受けている金融機関などは、この負担は避けて通れないものと思われます。
加えてオンサイト・モニタリングによって密度ある検査がなされることが予想されますから、そのような報告が形式的であったり、虚偽のものであると、すぐさま指摘がなされ行政処分が下るなどの結末になることも考えられます。
したがって、日ごろから形式的な取り組みをしてしまっているという事業者の方にとっては、その変革も求められることとなり、かなりの負担が強いられることが予想されます。
NPOに対する強化
テロ資金供与に悪用されるおそれのあるNPOなどに対しては、まずマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関する完全な理解を確保すべきとされています。
加えて、リスクに見合った対応と共に、ガイダンス提供やモニタリングをすることをもって監督することが求められています。
NPOにとっても、体制整備が求められるなど一定程度の負担が強いられることが予想され、ある程度マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の知識を備えた能力者の採用なども考慮しなければならないかもしれません。
小括
概ね以上までが、本当にざっくりですが対日相互審査報告書の概要です。報道では「不合格」のレッテルが貼られている日本ですが、冷静に読み解いていくと、そこまで酷評されているわけではないと感じます。
しかし、やはり課題の多さや、日本特有(諸外国の体制を知らないので偏見かもしれませんが)のいわゆる縦割り社会に対して、その変革を求めている点が何点かあることもわかります。
縦割り社会を完全に解消することはできないし、それにはかなりの時間がかかるものと思われますから、現場レベルへの影響は、すぐにというわけではないでしょう。
日本は令和6年春をめどに、これまで述べてきたマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策を行うという方針を示していますから、ゆるやかに、しかし確かに対策を講じ、順次実施されていくものと思われます。
その影響は、中小企業や個人事業主の方にも及ぶものと思われますから、新鮮な情報をキャッチし、注意深く動向を観察していくことが今後の課題となります。
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