行政不服審査法の改善に向けた検討会の中間取りまとめについて④
今回は、行政不服審査法の改善に向けた検討会の中間取りまとめのうち、公正性の向上について触れていきたいと思います。
<参考>
総務省「「行政不服審査法の改善に向けた検討会 中間取りまとめ」についての意見募集」(令和3年10月25日)(https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyokan01_02000134.html)
平成26行政不服審査法改正のねらい及び評価
審理員の適切な確保
従来の行政不服審査法では、不服申立ての内容を審理する人は、その処分に関与した職員が行っても問題はありませんでした。
しかし、自ら処分に関与した職員にその審理を担当させても、それを覆すということはあまり考えられません。
そこで、公正性の向上の観点から、審査請求先を原則として最上級行政庁とし(法第4条4号)、処分に関与していないなどの一定の要件を満たす者が審理手続を行うとしています(法第9条)
もっとも、ヒアリング結果によると、法律文書を作成した経験がない審理員が大半であることや、また、処分庁の主張を丸呑みしたものが散見されるなどの批判もあります(総務省「行政不服審査法の改善に向けた検討会 中間取りまとめ」(https://www.soumu.go.jp/main_content/000774950.pdf)27頁)。
法曹関係者が審理員に就職すべきとする意見もありますが、この点については特定行政書士なども今後、活躍が期待される分野かもしれません。
実際に、取りまとめでは次の記載があります。
審査庁が地方公共団体である場合は、審理員の質の向上を図るた め、上記の研修の積極的な受講を促すとともに、審理員を適切に確保 することができるよう、総務省において、各士業団体からの協力を得 ながら、審理員候補者及び審理員補助者をあらかじめ確保し、地域や 29 組織の枠を超えて審査庁の求めにより迅速に派遣する仕組みを設ける こと、審理員及び審理員補助者のサポートのための案内所を設けるこ と、審理員事務の委託の具体例・工夫例を広く普及すること等の措置 を講じる。
前掲取りまとめ28頁から29頁
対審的構造による審理手続の整備
この点は、行政不服審査法の改正によって弁明書、反論書、意見書の提出をすることによって対審的構造による審理の手続の実現を図っています。
民事訴訟に近いイメージですが、大きく異なるのは、審理手続の中で、審理員が必要に応じて、職権調査を行うとされた点です(法第33条から36条など)。
しかしながら、この点についても前述のとおり、法律文書を作成した経験がない職員が作成しようとすると、処分の根拠法令が記載されておらず「要件事実への当てはめ」がどのように行われたのか分からない書類があるという批判があったりします(前掲取りまとめ29頁)。
また、結論に至るまでの事実経過が不明確であるがために反論が困難となるケースも散見されるという意見もあります。
この点も、やはり文書作成能力を担保するために法曹関係者などを採用するのも手の一つですし、特定行政書士を採用するのも手の一つだと思います。
法律文書などは作成に作成を繰り返して会得する技術ですから、一朝一夕でできるものではないものと思われますし、そもそもそのような弁明書が審査庁から提出されてきたとしても、当事者が困るという、誰も幸せにならない結果になることも簡単に想像できます。
総務省の取りまとめでは、前述と類似するような記載となりますが、この点を充実させていこうという記載もあります。
弁明書が充実するよう、総務省におい て、各士業団体等から専門的な観点からの協力も得ながら、弁明書の 様式等を作成の上、処分庁に対して、定期的・継続的な研修を実施す る等の措置を講じる。
前掲取りまとめ30頁
小括
まとめ
このほかにも公正性の向上のために導入された制度はありますが、およそ充実にまで至っているかというと、正直微妙な感じがします。
その理由としては、行政不服審査法に基づく審査手続が、主に書面に基づいて進行することが想定されるところ、その書面の作成という部分について、課題が多く残されているからです。
法律文書については、公務員試験を通過した職員ですから一定程度の文書作成能力が期待されますし、また、実際にその分野の事務処理をこなしている職員の能力をもってして行政が運営されていることからすれば、その作成能力に期待することもできます。
しかしながら、職員も当然に審査請求対応のみをこなすわけではなく、加えて法律文書についてはその独特な文章構成など、専門的知識がないとなかなか難しい部分があるのも事実だと思います。
そうすると総務省が指摘するとおり、法曹関係者を審査請求人に採用するとか、あるいは特定行政書士を採用するなどが検討されても何ら不思議ではありません。
これらの方を採用することによって、職員は行政運営にも注力することができますし、他方、公正性の向上の観点からも、専門家に委ねることによって妥当な弁明書などが提出されれば適切な攻撃防御が可能となり、もって国民や市民の権利保護に資するといえるでしょう。
まだまだ検討の余地は多く残されているというのが今回の取りまとめの内容だと思いますが、今後どのように改正が検討されるかについては、とても興味深い話題だと思います。
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