新しい資本主義実現について
本年10月15日、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとして新しい資本主義を実現していくために、内閣に、新しい資本主義実現本部を設置することが閣議決定されました(内閣官房「新しい資本主義実現本部の設置について」https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/honbu.pdf)。
本部長には内閣総理大臣が就任し、また、具体的な目標も掲げられていることから、一定程度、実現が期待できるのではないかとみています。
<参考>
内閣官房「新しい資本主義実現本部/新しい資本主義実現会議」(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/index.html)
新しい資本主義
考え方
考え方については、正直、建前が多く掲げられているという印象を受けます。すなわち、「1980 年代以降、短期の株主価値重視の傾向が強まり、中間層の伸び悩み や格差の拡大、下請企業へのしわ寄せ、自然環境等への悪影響が生じており、政府、民 間企業、大学等、地域社会、国民・生活者が課題解決に向け、それぞれの役割を果たして いく必要がある。」(内閣官房「緊急提言 概要~未来を切り開く「新しい資本主義」とその起動に向けて~」https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/kinkyuteigen_gaiyou_set.pdf)などといった部分です。
問題点があまりに大雑把で多岐にわたるため、なかなか国民に対してその真意が伝わりづらいという感があります。
個人的に着目すべきだと考える点は、「本緊急提言は、早速、実行すべきものは実行に移し、新しい資本主義を起動するため、 当面、岸田内閣が最優先で取り組むべき施策を整理するものである」という点です。これによれば、少なくとも本緊急提言に記載されている事項については、積極的に今後議論が交わされるであろうと思います。
今後積極的に議論が交わされるであろう成長戦略と分配戦略は、次のとおりです。
成長戦略
- 科学技術立国の推進
- 我が国企業のダイナミズムの復活、イノベーションの担い手であるス タートアップの徹底支援
- 地方を活性化し、世界とつながる「デジタル田園都市国家構想」の起動
- 経済安全保障
分配戦略
- 民間部門における中長期も含めた分配強化に向けた支援
- 公的部門における分配機能の強化
成長戦略
科学技術立国の推進
科学技術立国の推進の具体的な内容は、次のとおりです。
- 科学技術立国の推進に向けた科学技術・イノベーションへの投資の強化
- デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進
- クリーンエネルギー技術の開発・実装
特に目新しいものがあるわけではないように思います。(1)について10兆円規模の大学ファンド・大学改革が掲げられていますので、研究分野に投資をすることとなるのでしょうか。
(2)についてはデジタル庁による改革が提言されています。すなわち、健康・医療・介護・教育等の分野におけるデータ利活用の推進です。これに関係する法律としては健康保険法なども去ることながら、個人情報保護法も十分影響を受けるでしょう。
実際に、仮名加工情報や個人関連情報など、次々と新しい定義が出てきては複雑化していますから、このあたりの最新の状況は注目に値すると思います。
我が国企業のダイナミズムの復活、イノベーションの担い手であるス タートアップの徹底支援
我が国企業のダイナミズムの復活等の具体的な内容は、次のとおりです。
- 要素技術の製品化・サービス化の促進
- 付加価値の高い新製品・新サービスの創出の促進
- スタートアップを生み出し、規模を拡大する環境の整備
- 新規株式公開(IPO)プロセス及び SPAC(特別買収目的会社)制度の検討
- 大企業とのオープンイノベーションの支援
- 公正な競争を進めるための競争政策の強化
- デジタル広告市場の透明化・公正化の推進
この辺りは、企業活動に大きく影響を与えると思います。(3)・(4)などは会社法の範疇ですし、(6)は独占禁止法、(7)は景品表示法などです。
特に会社法も、諸外国と足並みをそろえたり、経済団体の要望を取り入れながら目まぐるしく変わる分野です。また、最近では独占禁止法のみならず下請法なども強化が図られ、さらに提言内にはフリーランスの保護法制の新設も挙げられています。
加えて、景品表示法で今話題になっている広告の透明性、すなわち、アフィリエイト広告の責任の所在の明確化など、こちらも今後の動きに注目が必要です。
地方を活性化し、世界とつながる「デジタル田園都市国家構想」の起動
デジタル田園都市国家構想の具体的内容は、次のとおりです。
- テレワーク・ドローン宅配・自動配送などデジタルの地方からの実装
- 地域金融機関を含めた地域の中小企業の DX の面的・一体的な推進
- いわゆる 6G(ビヨンド 5G)の推進
- 教育の ICT 環境の整備
- デジタル田園都市国家構想実現会議とデジタル臨調の設置
- 地方活性化に向けた基盤づくりへの積極的投資
特にドローン宅配などが注目だと思います。こちらは電波法の範疇だと聞いたことがあります。また、6Gについては電気通信事業法などの整備も必要になると思われます。
経済安全保障
経済安全保障の具体的内容は、次のとおりです。
- 我が国の自律性の確保、優位性ひいては不可欠性の獲得のための経済安全保障を推進するための法案の策定
- 戦略技術・物資の特定、技術の育成、技術流出の防止等に向けた取組の推進
- デジタル社会の基盤となる先端半導体に関する国際共同開発支援と半導体工場 の我が国への立地支援、国内拠点工場の刷新
- 次世代データセンターの地方分散・最適配置の推進
こちらについては経済産業省の範疇でしょうか。また、次世代データセンターの地方分散などについては地方公共団体の土地をどのように活用するかなど、国家全体で取り組むべき問題であるように思われます。
まとめ
まとめ
分配戦略については次回触れたいと思います。特に、フリーランス保護法制は契約書作成に注力している身としては、大変興味深い分野です。
いままでも、公正取引委員会や厚生労働省、弁護士会なども連携しながらフリーランス110番を開設したりなど、国家規模でフリーランス保護に注力していることが分かります。
次回以降は、特にこの点に触れていければと思います。
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