フリーランスに対する国の方針
フリーランスの人口は1,577万人、経済規模は23.8兆円という調査結果が本年11月22日にインターネット上で発表されました。
コロナウィルス感染症によって、フリーランスに関する市場が活性化していることも指摘されています。
INTERNET Watch「フリーランス人口は1577万人、経済規模は23.8兆円~コロナ禍で市場が拡大-ランサーズが「フリーランス実態調査」最新版を発表-」(https://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/1368220.html)より引用
前回までのブログで、政府がフリーランス保護法制の立法を検討しているというお話をしましたが、実際に、フリーランスに関してどのような問題があるのでしょうか?
フリーランスに関する問題
仕事の8割が完成したのに
本年11月23日にインターネット上で発表されたコラムでは、次の問題提起をしています。
企業に副業・兼業解禁の動きが広がり、単発の仕事を請け負うギグワークなど、新しい働き方も登場する中、個人で仕事を請け負う人が増えている。これに伴い、顧客からの報酬未払いや突然の契約解除など、法的なトラブルも目立つようになった。弁護士ドットコムニュース「仕事の8割が完成したのに「もういらない」と契約解除…フリーランスの報酬トラブル対処法」(https://www.bengo4.com/c_18/n_13784/)より引用
特に報酬に関する問題は、フリーランスの約4割が経験しているという調査結果も発表されています。
組織に属さないフリーランス労働者の39.7%が、報酬の支払い遅れや不払い、仕事の内容変更といったトラブルを1年以内に経験していたことが18日、連合の調査で分かった。立場の弱さが浮き彫りになった。
20~59歳のフリーランスを本業として働く千人にインターネットで10月に調査。具体的な内容(複数回答)は「報酬支払いの遅延」と「一方的な仕事内容の変更」がいずれも29.5%で最多。「不当に低い報酬額の決定」「一方的な継続案件の打ち切り」が続いた。
トラブルを経験した人に対処方法を複数回答で聞くと「何もしなかった、できなかった」が31.2%に上った。共同通信「フリーランス4割がトラブル経験 立場の弱さ浮き彫りに、連合調査」(https://news.yahoo.co.jp/articles/28ad9d5a6854d3b7bbd6d29c45079a743171de93)より引用
フリーランスの定義は様々ですが、一般に、企業や集団に所属しないで同率して事業活動を行う者などと定義されることが多いようです。
そうすると、自分の身を守るのは自分という厳しい立場になりますから、自衛がなされていないとリスクを負うことになるのは、ある意味必然ということになるでしょう。
「必ず明示がある」は29.9%
1,000人のフリーランスに対し、主要な取引先事業者からは書面(メールを含む。)による契約内容の明示があるか問い合わせたところ、「必ず明示がある」と答えたのは29.9%にとどまったとのことです。
連合JTUC「フリーランスとして働く人の意識・実態調査2021」(https://www.atpress.ne.jp/releases/286141/att_286141_1.pdf)4頁より引用
気になるところは、「書面(メールを含む。)」と書かれていますから、おそらく契約書を取り交わしていないケースも含まれています。
よくお問い合わせいただく内容として、「メールでも契約書ですか?」というものがありますが、「はい」とはいえるものの、裁判所で証拠として扱うには、それなりに困難を伴いますので、おすすめはしません。
なぜなら、民事訴訟法(平成8年法律第109号)第228条は「文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。」と定めています。
したがって、原則としては、その文書を使ってけんかを吹っ掛ける側が、その文書が真正であることを証明しなければなりません。
これはかなり困難な問題です。例えば、「それは偽造されたものだ」とか「そのメールはフリーアドレスだから誰でも触れる。誰かが勝手に送ったから私は知らない」などと言われたら、やっかいです。
そのような事態を未然に防ぐために同条4項では「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」として、署名又は押印があるときには、証明責任が相手方に転嫁すると規定されています。
さて、話を「メールでも契約書ですか?」という問い合わせに戻すと、まず「はい」とはいえます。なぜなら、「契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示に対して相手方が承諾をしたときに成立」し(民法(明治29年法律第89号)第522条)、それを書き記した書面(その内容を記録した電磁的記録によってされた場合も含むとされることが多いです。)だからです。
ただし、メールでは署名又は押印がないのが通常ですから、その成立が真正であることを証明しなければならないという負担を伴います(電子署名が付されていれば別です)。
そうすると、やはり大事な契約においては、書面の契約書を残すのが一番有用だと私自身は考えます。
印紙代が浮くという考え方もありますが、印紙代を節約した結果、電子署名法上の電子署名に当たらないがために、証明責任を負担するのは、個人的にはリスクとリターンが見合わないという感があります。
フリーランスに対する企業の評価
フリーランス活用企業の6割が
株式会社Lboseは、一都三県(東京、神奈川、千葉、埼玉)の、フリーランス活用経験のある企業担当者を対象に「企業のフリーランス活用実態調査」を行い、次のような調査結果を得たと公表しています。
<参考>
PR TIMIS「フリーランス活用企業の6割が「満足」の一方で、9割が何らかの課題を感じていることが明らかに。」(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000044.000031581.html)
64%がフリーランスの仕事に満足と回答。
78%が今後もフリーランス活用をしたいと回答。
一方で、92%がフリーランス活用時に何らかの課題を感じていると回答。
フリーランスの採用・マネジメントの観点については、次のように示しています。
フリーランス活用の目的は「短期的な人手不足の解消」「専門的なノウハウ不足の解消」が最も多い。
フリーランス採用時に見るポイントは「価格」ではなく「スキルとコミュニケーションの能力の高さ」が最も多い。
フリーランス活用時の課題は、「社内での手続き・契約周りが煩雑」次いで「現場で依頼するフリーランスの決定・決済ができない」などの企業側の体制によるものが多い。
70%の企業がフリーランス活用時のワークスタイルとして「完全リモートワーク」「基本はリモートワークでたまに出社」を採用。
今後義務化が検討されているフリーランス活用時の契約書締結について、75%が「企業側がフリーランス活用に億劫になると思う」と回答。
フリーランスは、概ね企業側にとって良好な印象を与えていますが、引用末尾に記載されている「今後義務化が検討されているフリーランス活用時の契約書締結について、75%が「企業側がフリーランス活用に億劫になると思う」と回答。」は注目に値します。
フリーランス保護法制
日経新聞では、フリーランス保護の新法を早期に国会に提出すると報道しています。
コロナ禍では、フリーランスの方々に大きな影響が生じている。フリーランスとして安心して働ける環境を整備するため、事業者がフリーランスと契約する際の、契約の明確化や禁止行為の明定など、フリーランス保護のための新法を早期に国会に提出する。あわせて、公正取引委員会の執行体制を整備する。日本経済新聞「「新しい資本主義実現会議」の緊急提言の全文」(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA08B8B0Y1A101C2000000/)より引用
企業側が億劫になるという反作用がどの程度考慮されているはわかりません。
また、懸念すべき点として、単に形式的に契約書を取り交わすということです。
契約書とは、私の理解では、契約の内容を明記して当事者間の紛争を予防することを主たる目的とすべきものだと理解しています。決してだまし討ちのようなやり取りをするためのものであってはならないという考えです。
しかし、「契約書の締結」自体を目的としてしまうと、上記のような懸念が顕在化するおそれがあります。なぜなら、「契約書を締結すればいいんだろ」という主張をする者が現れるからです。
フリーランス保護にとって何が重要か
契約書の重要性
フリーランス保護法制が提言されており、契約書その他フリーランスを保護するための制度を整備することが掲げられています。
一番大事なのは、形式的な履行をすることではなく、実質的に制度を遵守することです。
契約書一つを取ってみても、企業の75%は億劫と感じていることは明らかであり、制度が整備されたとしても、そこに人的・時間的資源を投資するメリットはほぼありません。
そうすると、フリーランス側において、自分を守るために実質的に意義のある契約書を作成し、これを提示するという手続きが、自分を守ることを目的とするなら必要になると思います。
したがって、実質的意義のある契約書を自ら作成するか、又は専門家に作成したもらう必要があるでしょう。
弁護士、又は行政書士に相談して、フリーランスとしてしっかりと自分の身を守るべきというのが、本日のお話でした。
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