行政処分とは

query_builder 2021/12/10
ブログ

 本年12月9日、一部報道機関によって次の報道がなされました。


金融庁の課徴金取り消し ずさん調査、国に賠償命令
産経新聞(https://www.sankei.com/article/20211209-3M2GKDA4DZILTCMUHKAOXCJBRU/

 

 課徴金の一般的な意味は、国が公権力に基いて国民に課し、かつ、徴収する金銭負担をいいます。


 これを実行するための制度を一般的に「課徴金制度」といいます。


 課徴金制度は様々あり、例えば次のような国家機関がその制度を用意しています。


  • 公正取引委員会(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)第7条の2等)
  • 金融商品取引法(昭和23年法律第25号)第6章の2
  • 不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号)第2章第3節


 それぞれ目的が異なりますが、今回は、金融商品取引法に基づく課徴金制度について触れていきましょう。また、今回のように金融庁(証券取引等監視委員会)などの国家機関が適正ではない調査等を行ったとき、どのような対応ができるかについても簡単に触れていきます。

課徴金制度

金融庁の場合


 金融庁としては次のような考え方が根本として存在します。


証券市場への参加者の裾野を広げ、個人投資家を含め、誰もが安心して参加できるものとしていくためには、証券市場の公正性・透明性を確保し、投資家の信頼が得られる市場を確立することが重要です。金融庁「課徴金制度について」(https://www.fsa.go.jp/policy/kachoukin/02.html


 これを確保するために、例えばインサイダー取引や有価証券届出書等の虚偽記載などに対し、課徴金を納付するよう命令(以下「課徴金納付命令」といいます。)することがあります。


図(調査から課徴金納付命令までの流れ)

金融庁「調査から課徴金納付命令までの流れ」(https://www.fsa.go.jp/policy/kachoukin/02.html#nagare)から引用


流れとしては上図のとおりであり、

  1. 証券取引等監視委員会が調査し、
  2. 課徴金納付命令をすべき旨を勧告します(金融庁設置法第20条1項)。

行政法上の取り扱い


 この点、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為は、行政手続法上、「処分」といいます(行政手続法(平成5年法律第88号)第2条2号)。


 そして、課徴金納付命令は、国が公権力に基いて国民に金銭支払義務を課す行為をいいますから、行政手続法上の処分に該当するといえるでしょう。


 ただし、課徴金納付命令が行政手続法上の処分に該当するとしても、同法が目的とする権利保護の一部は、受けられない場合があります。


 なぜなら、金融商品取引の犯則事件に関する法令に基づいて証券取引等監視委員会がする処分は、行政手続法の適用除外だからです(同法第3条6号)。


 適用除外とされている理由は、金融商品取引の犯則事件に関するものは、証券市場の公正性・透明性を確保し、投資家の信頼が得られる市場を確立することが、わが国にとって重要だからと解されます。


 そして、適用除外となる代わりに、金融商品取引法第177条において、課徴金に関する調査のための処分が規定されており、かつ、同法第178条以降において、審判手続について詳細に定めることにより、調査の強制性を強化するとともに、他方で、国民の権利利益の保護にも配慮しているという構造を採っています。

金融庁の課徴金取り消し

事件の概要


 平成28年3月25日、証券取引等監視委員会は、株式会社SHIFT役員からの情報受領者による内部者取引違反行為及び当該役員による重要事実に係る伝達違反行為について検査した結果、法令違反の事実が認められたので、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、金融庁設置法第20条第1項の規定に基づき、課徴金納付命令を発出するよう勧告を行い、平成29年4月11日に金融庁は課徴金納付命令を決定しました。



  1. 会社の業務執行を決定する機関が、株式の分割を行うことについての決定をした旨の、SHIFTの業務等に関する重要事実の伝達を受けながら、その公表前に、自己の計算において、SHIFT株式合計2000株を買付価額合計1035万円で買い付けたなど。


違反行為事実の概要について

証券取引等監視委員会「株式会社SHIFT役員からの情報受領者による内部者取引違反行為及び当該役員による重要事実に係る伝達違反行為に対する課徴金納付命令の勧告について」(https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2016/2016/20160325-1.html)から引用

処分取り消し及び損害賠償請求事件


 これに対し、課徴金納付命令を課された元取締役は、国に対し、処分取り消しと500万円の損害賠償を求めて東京地裁へ提訴したようです。


 その判決として、処分を取り消し、かつ、証券取引等監視委員会の調査の違法性も認めて120万円の賠償を命じました。なお、課徴金納付命令を巡って証券取引等監視委員会の調査の違法性が、裁判で認められるのは初めてだそうです(朝日新聞DIGITAL「監視委の調査の違法性を認定、初の賠償命令 インサイダー事件で地裁」(https://news.yahoo.co.jp/articles/deb7bf0c5f22c89cbfdac9cca7363e99bfd07c57))。


 また、調査官が、職務上尽くすべき注意義務を尽くさなかったことを指摘しています。

行政庁からの指導や処分

行政庁には絶対服従?


 ところで、許認可等を経なければならない事業を行っている事業者にとって、その監督官庁の存在は影響が大きいです。


 そして、監督官庁から指導や指摘を受けることも、事業活動上、普通にあると思います。


 そのとき、事業者は、必ず服従することを義務付けられているのでしょうか?


 この点について、行政手続法を使うことができる場合があります。


 行政手続法では、処分・行政指導などに関して、行政運営の公正確保と透明性の向上を図ることによって、国民の権利利益を保護することを目的としています。


 この目的を果たすために、行政手続法第4章では、行政指導について規律が用意されています。

(行政指導の一般原則)
第三十二条 行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。 2 行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。

 ご覧のとおり、行政指導は原則として、任意の協力によって実現されるということが明記されており、かつ、これに従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならないと定められています。


 ・・・とはいうものの、やはり行政指導に携わる者も人間ですから、そうはいっても非協力的な人に対しては嫌悪感を示すこともありますし、「やましいことがあるから協力しないんだろう」という印象を抱かせることもあります。


 法律論としては同条のような建前がありますが、実運用ではどうかと言われると、従うべきときは従った方が無難でしょうということになるのではないでしょうか。


 従わない場合には、その理由と証拠を用意できているとベストです。


 さらに同法第36条の2においては、法令に違反する行為の是正を求める行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)の相手方は、当該行政指導が当該法律に規定する要件に適合しないと思料するときは、当該行政指導をした行政機関に対し、その旨を申し出て、当該行政指導の中止その他必要な措置をとることを求めることができるとされています(例外あり)。


 このような条文を根拠として、行政指導の中止を求めることもできることは、覚えておくと役に立つかもしれません。


 もっとも適用除外などが結構複雑なこともありますから、事前に弁護士や行政書士などの専門家に相談されるのもよいでしょう。

取消訴訟


 処分に従わなかった後のこととなりますが、最終手段としては、行政事件訴訟法に基づいて取消訴訟を提起することもできます。


 この場合には、弁護士と連携して話を進めていくこととなります。


 行政事件訴訟法に定めがない事項については民事訴訟の例によるとされており、両法律は密接に関連しています。

 

 しかし、聞くところによれば行政事件訴訟法と民事訴訟については、その訴訟物の特定の方法も異なるし、被告が国ということもあって、訴訟の運び方が異なるというのは聞いたことがあります。


 行政事件訴訟を提起する場合には、行政事件訴訟に詳しい弁護士に依頼するとよいかもしれません。

まとめ

まとめ


 今回は、証券取引等監視委員会の調査の違法性に対し、賠償命令を下した判決を取り上げました。


 行政庁からの指導や調査に対しては、その事前準備などが特に大事です。ここにいう事前準備とは、日ごろから自身の行動や判断について、客観的に合理性を有する理由をつけることだと私は考えます。


 常日頃から、なるべく後ろめたいことがないように事業活動をすることが、結局は一番よく眠れる人生を送れるのではないかという価値観が個人的にはあるので、私と取引する方は「この人は本当に細かいな」と思われるかもしれませんが、懲りずにお付き合いいただければ、私と取引する方にとっては保険になるという割り切りをもって接していただけると嬉しい次第です。

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