BASE株式会社の新機能について
本記事は、特定商取引法の観点から興味深かったことを理由に執筆しています。そのため、次の事項について十分ご注意願います。
※本記事は、アフィリエイト広告ではありません。また、BASE株式会社様と当事務所の間には、現時点で何らの関係性もありません。
※本記事は、BASE株式会社様が本年1月12日に公表した「特定商取引法の非公開設定機能を実装いたしました」(BASE株式会社様のホームページに飛びます。)を一部引用して執筆しています。
※本記事は、BASE株式会社様その他関係者の方から削除すべき旨の申し出があり次第、直ちに削除いたします。
今月12日、とても興味深い記事を拝見しました。
BASE株式会社(東京都港区六本木三丁目2番1号。以下単に「BASE」といいます。)様が提供するネットショップ作成サービス「BASE」において、個人ショップオーナーの所在地及び電話番号を非公開にすることができる機能をリリースしたというものです。
これがなぜ興味深かったかというと、特定商取引法(同施行規則)では、通信販売業者は原則として、販売業者等の氏名・名称・住所・電話番号を広告しなければならないと定められているからです(特定商取引法§11五⇒同施行令§8一)。
ただし、これには例外も認められており、消費者からの請求によって、これらを遅滞なく提供することを広告に表示し、かつ、実際に請求があった場合に遅滞なく提供できるような措置がある場合には、住所と電話番号の表示を省略することができます(消費者庁「通信販売広告Q&A」Q15からQ17。消費者庁のホームページに飛びます。)。
ところで、個人事業主や副業としてBASEのようなサービスを利用している事業者からは、個人情報が公になることに対する抵抗感が多くあったようです。
BASEとしては、自社の提供するサービス「BASE」において、そのような顧客からの声を反映させたものと思われます。このことは、多くの会社を見ていてもなかなかできることではないと思います。その理由は、まず法令調査をするのに手間がかかること、これが適切に運用されるために体制を整える必要があること、そのための費用を投入する必要があること、及びこのような対応をしてもこれが顧客に響くかが分からないことなど、様々あります。
そのため、多くの会社ではそのような取り組みは行われず、消費者の求めるものと会社の都合が相反してしまい、トラブルが生じるといった流れはいわば鉄板だと思われます。
今般のBASEの取り組みは、顧客の目線に立った会社運営をしていることを明らかにすることができるし、かつ、サービス利用者にとってもメリットがあることから、画期的だと個人的には評価しています。
そこで今回は、特定商取引法と会社運営という観点からお話ししようと思います。
<参考>
消費者庁「通信販売」(https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/mailorder/)
消費者庁「通信販売広告Q&A」(https://www.no-trouble.caa.go.jp/qa/advertising.html)
BASE「特定商取引法の非公開設定機能を実装いたしました」(https://baseu.jp/information/20220112)
クリエイターエコノミー協会「プラットフォームで個人が売買する際の特定商取引法の運用に関する消費者庁の見解について」(https://creator-economy.jp/n/ne52fe5d8d586)
特定商取引法
特定商取引法とは
特定商取引法とは、次の手段によって、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする法律です。
- 特定商取引を公正にし、購入者等が受けることのある損害の防止を図ること。
- これにより購入者等の利益を保護すること。
- あわせて商品等の流通・役務の提供を適正かつ円滑にすること。
なお、特定商取引とは、次に掲げるものをいいます。今のところは7つです。ドラゴンボールみたいなものです。
- 訪問販売
- 通信販売
- 電話勧誘販売
- 連鎖販売
- 特定継続的役務提供
- 業務提供誘因販売
- 訪問購入
BASEのサービスはこのうち「通信販売」に当たると思われます。通信販売に当たると、特定商取引法の規制に服し、主に第3条から第10条が問題となります。
通信販売とは
通信販売の定義は、特定商取引法第2条1項2号で定められています。
しかし特定商取引法は法律専門職の間でも読みにくい法律で有名です。通信販売も例外ではなく、条文をそのまま持ってくると次のようになります。特定商取引法は所見殺しです。
この章及び第五十八条の十九において「通信販売」とは、販売業者又は役務提供事業者が郵便その他の主務省令で定める方法(以下「郵便等」という。)により売買契約又は役務提供契約の申込みを受けて行う商品若しくは特定権利の販売又は役務の提供であつて電話勧誘販売に該当しないものをいう。
見てもよくわかりませんからざっくり言えば、インターネットを通じて商売している会社といって問題ないでしょう。より具体的に挙げると、新聞や雑誌、テレビ、インターネット上のホームページ(インターネット・オークションサイトを含む)などによる広告や、ダイレクトメール、チラシ等です。
なお、特定商取引法には一部適用除外があります。これは結構重要です。例えば、金融商品取引業者などは、適用除外とされています。
したがって、特定商取引法の一部(訪問、通信及び電話勧誘販売)の規制は適用されません(特定商取引法§26①八イ)。ただし金融商品取引業者は、もっと厳しいとされる金融商品取引法で規制されています。
ちなみに、行政書士も適用除外です(同法施行令§5 別表2の十四)。理由は、行政書士法があるからです。
通信販売時の広告表示の原則
さて、通信販売では原則として、次の事項を広告しなければなりません。これは特定商取引法と主務省令に定められています。前述のとおり特定商取引法は所見殺しなので、消費者庁のホームページをご覧いただくとよいでしょう。(消費者庁「通信販売」https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/mailorder/)
- 販売価格(役務の対価)(送料についても表示が必要)
- 代金(対価)の支払い時期、方法
- 商品の引渡時期(権利の移転時期、役務の提供時期)
- 商品若しくは特定権利の売買契約の申込みの撤回又は売買契約の解除に関する事項(その特約がある場合はその内容)
- 事業者の氏名(名称)、住所、電話番号
- 事業者が法人であって、電子情報処理組織を利用する方法により広告をする場合には、当該販売業者等代表者または通信販売に関する業務の責任者の氏名
- 申込みの有効期限があるときには、その期限
- 販売価格、送料等以外に購入者等が負担すべき金銭があるときには、その内容およびその額
- 引き渡された商品が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合の販売業者の責任についての定めがあるときは、その内容
- いわゆるソフトウェアに関する取引である場合には、そのソフトウェアの動作環境
- 商品の売買契約を2回以上継続して締結する必要があるときは、その旨及び販売条件
- 商品の販売数量の制限等、特別な販売条件(役務提供条件)があるときには、その内容
- 請求によりカタログ等を別途送付する場合、それが有料であるときには、その金額
- 電子メールによる商業広告を送る場合には、事業者の電子メールアドレス
ただし、これには例外があり、広告の表示事項を省略できる場合も定められています。
通信販売時の広告表示の例外
広告の態様は千差万別であり、また、広告スペース等も様々あり、これらの事項をすべて表示することは実態にそぐわない面があります。
消費者からの請求によって、これらの事項を記載した書面 (インターネット通信販売においては電子メールも可)を 「遅滞なく」提供することを広告に表示し、かつ、実際に請求があった場合に「遅滞なく」提供できるような措置を講じている場合には、 広告の表示事項を一部省略することができます(特定商取引法§11但書)。
そしてこの中には、販売業者の氏名(名称)・住所・電話番号も含まれているため、BASEとしてはここを利用したということだと思われます。
これもわかりにくいので、消費者庁のホームページをご覧いただくのがよいでしょう(前掲消費者庁)。
特定商取引法と会社運営
問題点
以上のとおり、特定商取引法は所見殺しなため、これを会社運営に適正に反映させるのは、専門家等と協働しないと困難な場合が多いです。
そのため、数多くの中小・零細企業や個人事業主はこれを無視したり、適正な運営がなされていません。
そこで例えば、インターネットなどで商品を購入する消費者の方々は、その相手方が特定商取引法の表示を行っているか、行っているとしてそれは適切かというのを見るだけでも、トラブル防止になります。
これをしっかり見てみると、意外と行っていない事業者が多くいることに気づくでしょう。そのような事業者は、トラブルになったときにも適切な対応ができないと思います。なぜなら、法令遵守の精神がないので、トラブルになっても法令などはお構いなしだからです。いわゆる泣き寝入りを狙ってきます。
未然に防ぐには、このような細かい配慮がなされているかについても注視するとよいでしょう。
BASEの適切な運用の意識
さて本題のBASEのお話になりますが、まずは引用してみましょう。
この度、「特定商取引法に基づく表記」に関する消費者庁の見解に基づき、個人のショップオーナーを対象にショップの所在地および電話番号の非公開設定が可能になりましたのでお知らせいたします。なお、「BASE」の特定商取引法の非公開設定については、2021年7月にクリエイターエコノミーの推進・支援を目的に設立されたクリエイターエコノミー協会が消費者庁、経済産業省、議員各位とクリエイターの個人情報保護の観点等を中心に協議を重ねた結果、同年秋に消費者庁より“プラットフォームが一定の条件を満たせば、その利用者は「特定商取引法に基づく表記」においてプラットフォームの住所や電話番号を記載する運用で問題がないとする”という新たな見解を受けて、クリエイターが経済活動を行う障壁を無くし安全にネットショップを運営できる環境をいち早く提供することを目的に早急に機能の実装を推進いたしました。
前掲BASEから引用
BASEとしては、「クリエイターが経済活動を行う障壁を無くし安全にネットショップを運営できる環境をいち早く提供すること」を目的として、その目的を達成するために長らく法令調査や折衝をしてきたようです。
これがなかなか骨の折れることではありますが、顧客の利便性のために費やしたと思われます。また、これを実装するためにもその体制整備やシステム開発等が行われたことを考えると、顧客目線がなければできないといえるでしょう。
実際にこのような調査や体制整備をすることなく、住所や電話番号を表示しなくても、法令違反ではあるものの行政庁から指摘されないという可能性もあります。50キロ制限道路を51キロ出した瞬間に逮捕されるかと言われれば、そうではないということと同じです。ここが法律のもどかしさでもあります。
しかしBASEとしてはそのようなことをせず、適切な対応を重ねた上で実装し、公表に至っています。この点、法令遵守と顧客利益の意識の高さが垣間見えると個人的には考えています。通常であれば、費用も労力もかかるし、旧態依然の方が楽ですから、なかなかできないのが正直なところでしょう。
BASEの非公開設定の対応経緯
前掲BASEによれば、「昨今のインターネットテクノロジーの発達により、個人やスモールチームがビジネスをする機会が増大している一方で、個人においても特定商取引法で定められた情報の開示が必要であり、それにより個人情報が犯罪に悪用されるなどのリスクもありました。こうした理由から、インターネットを活用した商品販売などのビジネスを躊躇されたり、諦める方もいる状況がありました。」と述べており、「消費者庁の見解を受けてから「BASE」は、特定商取引法の非公開設定機能をネットショップ作成サービスとして初めて取り組みました。」としています。
「初めて」の理由は重ねて述べたところであり、とにかく手間がかかるという点だと思います。顧客に住所と電話番号を表示するという負担をしていただいた方が、運用上は楽です。
これを打破して、初めて取り組んだという点は、高く評価されるべきと考えます。
BASEの今後の運用上の注意点
他方、実装すれば終わりではなく、その後の運用も重要になってきます。今後の運用は、実装段階で行われたはずである体制整備が問われることとなるでしょう。
先ほども述べましたように、消費者からの請求によって、「遅滞なく」提供することを広告に表示し、かつ、実際に請求があった場合に「遅滞なく」提供できるような措置を講じている場合に、住所・電話番号の省略が認められます。
したがって、BASEとしては「遅滞なく」事業者の情報を提供するような措置を講じる必要があると思われます。
この点は、簡単なことではないと個人的には思います。なぜなら、単に事業者自身が住所・電話番号などの表示を省略する場合には、消費者から求められたら素直にそれらを提供すればよいと思います。
しかし、事業者はBASEを通して消費者に販売しているため、事業者が省略した住所や電話番号などについて、消費者はBASEにその表示を求めることとなるからです。
そうすると、BASEとしては、一方で住所や電話番号を表示したくない事業者と、他方でそれらを表示してほしい消費者との間で、板挟みにあうこととなります。
このような状況になった場合に、適切に運用がなされなければ、BASEのサービスに対する信頼が揺らぐ可能性もあるというのが、簡単ではないと思う理由です。
これに対する対策としては、住所や電話番号を表示したくない事業者としっかりと契約書(おそらく契約約款だと思いますが。)に明記して、事業者とBASEとの間で合意が取れていることが不可欠だと思われます。
さらに「契約約款に書いてあるからいいだろ」というような運用だと、住所や電話番号が表示されることはないと誤解する事業者との間でトラブルになる可能性もあります。
以上のように考えると、どのような運用がなされるかも非常に大事なことであると思います。
まとめ
まとめ
特定商取引法のみならず、事業者には消費者関連法の規制が多くあります。そのような中、これを全く考慮しない事業者や形式的に法令違反を回避する事業者などもおり、消費者被害もなくなることはないでしょう。
他方、法令の趣旨を理解し、かつ、事業者としても攻めるところはしっかりと攻めたいという信念を持ち、攻めるならば事前準備をしっかりして、正々堂々と行おうという事業者も少なからず存在します。
そのような事業者を見つけたい消費者の方々は、その事業者が法令に対してどのように向き合っているかを見るのがよいでしょう。
特に、特定商取引法はほとんどの事業者に適用されます。そこで、通信販売であるなら、必要な表示事項を表示しているかがポイントです。詳しくは、消費者庁のホームぺージをご覧いただくとすぐにわかります。
今回BASEを取り上げましたが、個人的には相当な手間がかかるし、顧客目線がなければ取り組まないであろうことに対して、(資料を拝見する限りですが)適切な運用をなされていると感じ、また、特定商取引法の観点からも興味深かったので執筆しました。
このような事業者が増え、かつ、売上に反映されるといいなぁと個人的には常々思っています。
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