景表法の法執行状況の公表について

query_builder 2022/02/01
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 本年1月31日、消費者庁から「景品表示法に基づく法的措置件数の推移及び措置事件の概要の公表(令和3年12月31日現在)」が公表されました。


 今回は、その中で事業者の方々の参考になる事例について触れていきたいと思います。


<参考>

消費者庁「景品表示法に基づく法的措置件数の推移(令和3年12月31日現在)」(https://www.caa.go.jp/notice/assets/information_other_220131_0001.pdf

消費者庁「事業者が講ずべき表示等の管理上の措置の具体的事例」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/pdf/141114premiums_5.pdf

消費者庁「景品表示法の基本的な考え方」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/premiums/pdf/sankousiryou.pdf

景品表示法に基づく法的措置件数の推移

法的措置件数の推移


 まずは不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号により成立し、令和元年法律第16号により改正されたもの。以下「景品表示法」といいます。)に基づき国により行われた法的措置件数の推移をみていきましょう。



 ご覧のとおり、一定数の法的措置が行われています。

 なお、課徴金納付命令は平成28年4月1日の景品表示法改正により導入されています。


 法的措置には措置命令(法§7)と課徴金納付命令(法§8)があります。措置命令は違反を繰り返さないための措置を講じれば足りるものであり、課徴金納付命令は金銭の納付を求められるものです。


 もっとも、企業名やサービスなどが公表されますから、社会活動をする上で、極めて重大な影響を及ぼすこともあります。この点、社会的信頼を重視する事業主の方は、注意が必要です。


 それでは、措置命令と課徴金納付命令についてもう少し踏み込んでみましょう。

景品表示法第7条に基づく措置命令


 内閣総理大臣は、景品表示法に違反する行為があるときは、その違反をした事業者に対して、次のことを命じることができるとされています(法§7①)。


  •  その違反行為の差止め
  •  その違反行為の再発防止のために必要なこと
  •  その違反行為に関連する公示


 なおこの命令は、現在違反行為をしていない場合にも可能です。したがって、「いまはもうやってないから」という言い訳は通用しない可能性があります。


 また、内閣総理大臣は、その命令をするか微妙なときは、事業者に対して根拠資料を求めることができます(法§7②前段)。そしてこれに関し、次の点が特に重要です。


  • その根拠資料を提出しないときは、不当表示とみなされます(法§7②後段)。


 これはかなり強力な法的効果です。つまり、「根拠資料を求められる+根拠資料が提出されない=不当表示」です。しかもこのとき、提出した根拠資料が合理的なものではない場合も、この条文にしたがって処理されますので、不当表示となります。


 一般に、人に何かをおすすめするときは、その根拠が求められるのが通常であると思われます。そして、これは消費者庁も同様の見解に立っているものと思われます(前掲消費者庁指針6(4頁))。


 したがって、広告をするに当たっては、その合理的根拠をしっかりと準備し、かつ、これを保存しておくことが特に重要になります。

景品表示法第7条に基づく措置命令の事例


 措置命令は、消費者庁長官の名で、違反した事業者に対して、こんな感じで来ます。ちなみに、「さっきは内閣総理大臣って言ってたのに、消費者庁長官から?」という点については、景品表示法第33条1項にそのように定められているからです。


 いわゆる公文書で、命令の内容をしなさいということが書かれています。この末尾にはある意味お決まりの文句として、次のようなものがあります。


消費者庁長官は、前記アの表示について、それぞれ、景品表示法第5条第1号に該 当する表示か否かを判断するため、同法第7条第2項の規定に基づき、●●に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料 の提出を求めたところ、●●は、当該期間内に表示に係る裏付け とする資料を提出したが、当該資料はいずれも、当該表示の裏付けとなる合理的な根 拠を示すものであるとは認められないものであった。


 そして、


前記事実によれば、●●が自己の供給する本件2商品の取引に関し行った表示は、それぞれ、景品表示法第7条第2項の規定により、同法第5条第1号に規定する、本件2商品の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良 であると示すことにより、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選 択を阻害するおそれがあると認められる表示とみなされるものであって、かかる表示をしていた行為は、それぞれ、同条の規定に違反するものである。


 このことから、景品表示法第7条2項によって、不当表示とみなされることがお分かりいただけると思います。理由付けは正直、命令書のみでは不明瞭なことが多いです。つまり、「どのような資料を出したのか?」とか「その資料を見てどのように感じた上で、合理的ではないと判断されたのか?」というのは、現場レベルではわかるのかもしれませんが、公表からはわかりません。


 さて、令和3年の措置命令の事例としては、次のようなものがあります。(なお、下記は公表を参考にして、当事者がなるべくわからないようにすることを目的としてはぐらかして書いています。)


  • 「ウイルス、花粉、アレル物質、細菌、 PM2.5・・・。目には見えなくても、私たちの身のまわりの空気中には、日々の健康に影響を 及ぼすさまざまな原因物質が浮遊しています。」「・・・、イオンの発生効果を利用した携帯エア・クリーナー。いつでも、どこでも、身につ けているだけで、あなたの身のまわりの空気トラブルを軽減します。」等と表示して、あたかも、商品から発生するイオンの作用により、いつでもどこでも身の回りの空気を清浄にして、空気中に浮遊するウイルス、花粉、アレル物質、PM2.5、細菌等が人体に及ぼす影響を軽減する効果があるかのような表示をしていた。
  • 自社ウェブサイトにおいて、「花粉除去率99.9%」及び「PM2.5除去率99.9%」並びに「・・・、首にかけるだけでいつでも、どこでも、キレイな空気があなたを包み込みます。」等と表示するなど、あたかも、商品を身に着ければ、商品から発生するマイナスイオンの作用により、いつでもどこでも、様々な場面で、 身の回りの空間の花粉、PM2.5などの浮遊物を除去し、空気を清浄にする効果があるかのような表示をしていた。
  • アフィリエイトサイトにおいて、「・・・『90%がフサフサになった育毛剤』がヤバイ!」、「悩んでいた のがウソのように、たった2ヶ月で髪がフサフサになったんです!!!今ではもう頭皮が見えないくらい生えるので、理髪店に行っても『髪の量多いですね~』と言われるように(笑)抜け毛が嫌だったシャンプーもガシガシ洗えるし、まるで20代に戻ったみたいです。」等と表示することにより、あたかも、商品を使用するだけで、商品に含まれる成分の作用により、短期間で、外見上視認できるまでに薄毛の状態が改善されるほどの発毛効果があるかのような表示をして いた。
  • ある商品については、「生産国:中国」と表示していたが、 実際には、商品の原産国は日本国であるなど、商品の原産国(地)は、表示された国ではなかった。
  • ガソリンスタンドの看板において、「レギュラー129」、「ハイオク139」及び「軽油 109」と価格を表示するなど、あたかも、商品の価格が税込価格であるかのように表示していたが、実際には、税込価格ではなかった。


 3番目は、アフィリエイトであっても措置命令が下ったという点において注目を集めた措置命令でした。

 そのほか、下の2つなども、日常生活ではたまにあったりすることだと思いますが、これに対して措置命令が下るか否かは、一般消費者の通報なども関係するのではと想像します。

景品表示法第8条に基づく課徴金納付命令


 課徴金納付命令とは、ざっくり言えば違反行為に対して国が金銭の納付を明示することです。景品表示法に基づく課徴金は第8条に定められています。


 ただし、不当表示であったと知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意をしたと認められるときや、課徴金として算出した額が150万円未満であるときは課徴金納付命令はできません(法§8①但)。


 課徴金として計算される期間は、本当にざっくり言うと遡って3年間です(法§8②)。結構昔のことまでほじくり返されることとなります。


 なお、根拠資料の提出については、措置命令と同様と考えてよいです(法§8③)

景品表示法第8条に基づく課徴金納付命令の事例


 正直、措置命令と課徴金納付命令は、どのような基準でどちらの命令が下されているのかが、未だ私の調査が及ばないところでもあります。

 なんとなく感覚ですが、サプリメント系に多い感触が個人的にはあって、そうすると、体内摂取され健康被害が生じる可能性が存在するものについては、課徴金納付命令が下りやすいのかなという気もします。

 この点は、薬機法などの観点も関係しているかもしれません。


 事例として、課徴金額が大きいものを挙げてみようと思います。


  • 「免疫力を高める方法についての情報●●研究所」、「免疫低下で病気を招く」、「免疫を高める●●」、「もっと知りたい! 今話題の●●と自然免疫活性成分って?」並びに「免疫力を高める●●」と表示することにより、 あたかも、本件商品を摂取するだけで、免疫力が高まり、疾病の治療又は予防の効果があるかのような表示をしていた。課徴金額:1億7889万円
  • 「追加料金一切不要の・・・」、「無料資料請求で 総額188,000円(税込) 追加料金一切不要」と記載するなど、あたかも、サービスを追加・変更する場合でも、記載された価格以外に追加料金が発生しないかのように表示していたが、実際には追加料金が発生するものがあった。課徴金額:1億180万円
  • 「1日たった4粒飲めば体が引き締まる!」、「筋肉をつけ代謝を上げつつ、余分な摂 取をスッキリさせることで、」、「リバウンド知らずの理想の体に!」、「健康的な食事や運動のお供に、毎日同じタイミングでお飲み下さい。摂り続けるほど実感度アップが期待できます。1日4粒以上を目安に、毎日、お飲み下さ い。」等と表示することにより、あたかも、健康的な食事や運動と共に、本件商品を毎日4粒を目安に摂取し続ければ、本件商品に含まれる成分の作用により、効率よく筋肉増強効果及び痩身効果が得られるかのように示す表示をしていた。課徴金額:6627万円

まとめ

じゃあ広告はできない?


 景品表示法については、条文の文言が不明確なきらいがあります。そして、およそほとんどの広告に適用されますから、事業主にとっては大きな壁となることがあります。


 特に、広告審査担当者が景品表示法に詳しいと、「あれはだめ、これもだめ」となってしまう可能性もあり、事業活動が大幅に委縮されかねません。


 そこで、景品表示法に「詳しい」だけでなく、これを「扱える」必要があります。すなわち、景品表示法の文言を駆使することです。


 例えば、景品表示法が不当表示とするものは「著しく」優良又は有利な表示のみをその対象としています(法§5)。広告作成者も審査担当者も、この点をよく理解する必要があります。単純に、「法律に書かれているし、(なんとなく著しいととらえられる可能性があるから)ダメ!」というのは、その扱い方に慣れているとは言えないと思います。

 扱い方に慣れている者はもちろん「著しい」ってどういうこと?ということを調べます。


 裁判所も、次のとおり、ある程度の誇張・誇大はやむを得ないことを認めています(東京高等裁判所判決平成14年6月7日(東京高等裁判所平成13年(行ケ)第454号))。


およそ広告であって自己の商品等について大なり小なり賛辞を語らないものはほとんどなく、広告にある程度の誇張・誇大が含まれることはやむを得ないと社会一般に受け止められていて、一般消費者の側も商品選択の上でそのことを考慮に入れているが、その誇張・誇大の程度が一般に許容されている限度を超え、一般消費者に誤認を与える程度に至ると、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれが生ずる。そこで、景品表示法4条1号は、「著しく優良であると一般消費者に誤認されるため、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示」を禁止したもので、 ここにいう「著しく」とは、誇張・誇大の程度が社会一般に許容されている程度を越え ていることを指しているものであり、誇張・誇大が社会一般に許容される程度を越えるものであるかどうかは、当該表示を誤認して顧客が誘引されるかどうかで判断され、そ の誤認がなければ顧客が誘引されることが通常ないであろうと認められる程度に達する 誇大表示であれば「著しく優良であると一般消費者に誤認される」表示に当たると解される

そして、当該表示を誤認して顧客が誘引されるかどうかは、商品の性質、一般消費者の知識水準、取引の実態、表示の方法、表示の対象となる内容などにより判断される


 ここまでたどり着くとすれば、あとは事業主が取り扱う商品の性質、一般消費者の知識水準、取引の実態、表示の方法などを検討することとなります。これらは、商品などを取り扱う現場の人間が一番よく知るところでしょう。


 思うに、法律を適切に扱うというのは、現場が抱える法的心配を解消し、もって活発な活動を支援する状態にすることだと思います。そして、広告(場合によっては景品の提供)は事業活動の中枢であるところ、景品表示法を扱うことができるか否かは、事業活動の根幹であるといえるでしょう。


 そうすると、景品表示法に詳しいだけでは物足りず、これを適切に理解し、検討し、取り扱うことが強く求められ、これが可能な事業者においては、委縮することなく適切な広告活動などが行えるはずです。

まとめ


 これを見誤ってしまうと、措置命令や課徴金納付命令の対象となってしまい、事業者が不利益を被ることとなります。そしてその不利益は、金銭的なものに限らず、特に社会的信頼を失うこともありますので、十分な注意が必要です。

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