消費者契約法が国会に提出されました
本年3月1日に、第208回国会(常会)に消費者契約法の改正案が提出されました。
提出の理由をまとめると、つまり消費者保護のために次の点について消費者の権利を拡充し、もって消費者保護を実現することとされています。(消費者「消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律」(https://www.caa.go.jp/law/bills/assets/consumer_system_cms101_220301_03.pdf)法律案・理由74頁)
消費者契約法の改正案のうち、事業者に関係する点は、概ね次のとおりでしょう。
- 事業者の努力義務に関する改正
- 困惑類型の追加
- 無効とする消費者契約の条項の類型の追加
- 損害賠償の額の予定又は違約金の算定の根拠の概要を説明する努力義務の創設
- 適格消費者団体の要請に係る制度の創設
消費者契約法とは
消費者契約法の概要
消費者契約法は、消費者と事業者との間について、次のものを問題としています。
- 情報の質・量
- 交渉力の格差
一般に、会社と個人であれば、会社の方が情報をたくさん持っており、しかも資金も豊富でありますから、「うちと取引したくなければ、ほかに行ってどうぞ」といいやすい立場にあります。
または、情報がたくさんあるが故に、取引上とても大切なことを言わなかったり、あるいは一部の情報を切り取って消費者を騙すことも可能です。
そうすると、消費者は、誤った選択をしてしまったり、困惑したりしますから、正常な取引ができません。
そこで、消費者取引法では、消費者の契約の申込み・承諾の意思表示の取消権を拡充しています。
また、事業者には次の負担を課しています。
- 損害賠償の責任を免除する条項の全部又は一部の無効
- その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部の無効
このほかに、適格消費者団体について取り決めています。
要するに、消費者のための法律ということです。逆をいえば、事業者にとっては少なからず負担をかける法律ともいえます。
消費者契約法の主な改正点
契約の取消権の追加
この点について、次の取消権が追加されます。
- 勧誘することを告げずに退去困難な場所へ同行し勧誘
第4条
三 当該消費者に対し、当該消費者契約の締結について勧誘をすることを告げずに、当該消費者が任意に退去することが困難な場所であることを知りながら、当該消費者をその場所に同行し、その場所において当該消費者契約の締結について勧誘をすること。
- 威迫する言動を交え、相談の連絡を妨害
第4条
四 当該消費者が当該消費者契約の締結について勧誘を受けている場所において、当該消費者が当該消費者契約を締結するか否かについて相談を行うために電話その他の内閣府令で定める方法によって当該事業者以外の者と連絡する旨の意思を示したにもかかわらず、威迫する言動を交えて、当該消費者が当該方法によって連絡することを妨げること。
- 契約前に目的物の現状を変更し、原状回復を著しく困難に
第4条
九 当該消費者が当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をする前に、当該消費者契約を締結したならば負うこととなる義務の内容の全部もしくは一部を実施し、又は当該消費者契約の目的物の現状を変更し、その実施または変更前の現状の回復を著しく困難にすること。
一番最後の目的物の現状変更は、いわゆる点検商法や指摘商法に対応するものと思われます。
兵庫県瓦工事業協同組合「悪質業者にご注意」(https://www.hyogo-yane.com/attention/)
解約料の説明の努力義務
解約料の説明については、努力義務です。しかし、今後法的義務に発展するかもしれませんので、なるべく法改正に対応する方が望ましいと思います。
- 消費者に対し算定根拠の概要
第9条
2 事業者は、消費者に対し、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項に基づき損害賠償又は違約金の支払いを請求する場合において、当該消費者から説明を求められたときは、損害賠償の額の予定又は違約金の算定の根拠の概要を説明するよう努めなければならない。
これは、消費者契約法においては現在でも解除の際に「平均的な損害」の額を超えるものは、その超える部分について無効と定められている(消費者契約法§9一)ところ、消費者が「平均的な損害はいくらか?」を証明するのは極めて困難であるので、それに配慮したものといえるでしょう。
消費者契約に関する検討会の報告書(令和3年9月)にも、13頁に同様の趣旨が記載されています。
- 適格消費者団体に対し算定根拠
第12条の4
適格消費者団体は、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項におけるこれらを合算した額が・・・平均的な損害の額を超えると疑うに足りる相当な理由があるときは、内閣府令で定めるところにより、当該条項を定める事業者に対し、その理由を示して、当該条項に係る算定根拠を説明するよう要請することができる。
2 事業者は、前項の算定根拠に営業秘密(・・・)が含まれる場合その他の正当な理由がある場合を除き、前項の規定による要請に応じるよう努めなければならない。
あくまで努力義務ではありますが、適格消費者団体との間での交渉となると、なかなかの厳しい交渉となりそうな気がします。
事業者としては、解約料については再検討した上で、規約等も変える必要があると思います。
免責の範囲が不明瞭な条項の無効
かねてより問題となっていたサルベージ条項について、無効となるようです。
サルベージ条項とは、ある条項が法律に反し全部無効となる場合に、その条項の効力を法律に抵触しない範囲に限定する趣旨の契約条項をいいます。
例:法令に反しない限り、1万円を上限として賠償します。
このようにすると、消費者としてはどのような場合に損害賠償が請求できるのかが分かりにくいとして問題となっていました。
第8条
3 事業者の債務不履行(・・・)又は消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(・・・)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する消費者契約の条項であって、当該条項において事業者、その代表者又はその使用する者の重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないものは、無効とする。
事業者の努力義務の拡充
契約の解除に必要な情報提供等の努力義務が加わっています。
第3条
事業者は、次に掲げる措置を講ずるよう努めなければならない。
三 定型約款に該当する消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者が同項に規定する定型約款の内容を容易に知り得る状態に置く措置を講じているときを除き、消費者が・・・請求を行うために必要な情報を提供すること。
四 消費者の求めに応じて、消費者契約により定められた当該消費者が有する解除権の行使に関して必要な情報を提供すること。
冒頭で述べたとおり、消費者契約法は、情報の格差を問題としていますから、情報の提供を努力義務としています。
まとめ
消費者契約法は、消費者契約全般に適用される包括的な民事実体法であり、その規律は、社会経済情勢の変化等に適切に対応し得るものであることが求められるとされており、結構頻繁に改正がなされます。
過去に平成28年、平成30年と改正されており、今年改正案が提出されているというペースです。
事業者に負担をかけることによって消費者を保護するものですから、事業者にとってはその人的資源を避けるかが論点となります。
そんなときは、外部専門家に相談するのも良いと思います。規約の作成なども、弁護士や行政書士が作成することによって、自身では手間をかけずに体制整備をしていくというのも、選択肢の一つとして検討しておくべきでしょう。
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