電気通信事業法改正案の提出

query_builder 2022/03/08
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 総務省は本年3月4日、電気通信事業法の一部を改正する法律案を、第208回国会(常会)に提出したようです。


<参考>

総務省「電気通信事業ガバナンス検討会」報告書(https://www.soumu.go.jp/main_content/000794590.pdf

総務省「電気通信事業法の一部を改正する法律案(概要)」(https://www.soumu.go.jp/main_content/000797453.pdf

電気通信事業法の改正案に至った経緯

電気通信事業ガバナンス検討会報告書での指摘点


 電気通信事業法の改正案の提出までの経緯については、総務省から本年2月に公表された「電気通信事業ガバナンス検討会」の報告書が参考になると思われます。


 ざっくりまとめると、次のようになるでしょう。


【対象者】

電気通信事業者(特に情報の漏えい・不適正な取扱い、電気通信サービスの停止等により利用者の利益に及ぼす影響が甚大なものとなることが見込まれる者)


【保護したいもの】

  • 機密性
  • 完全性
  • 可用性


の3つの視点を踏まえた情報の適正な取扱いを通じて、


  • 利用者が安心して利用でき
  • 高い信頼性を有する電気通信サービスを提供する


こと(前掲報告書21頁)。


 これらの理由としては様々ですが、例えばLINE社の業務再委託歳のLINE China社で個人情報のアクセスが可能であった件(前掲報告書17頁)とか、サイバー攻撃等が増えており、インターネット利用者の約75%が何らかの不安を抱えていることを挙げています。


前掲報告書19頁から引用

電気通信事業ガバナンス検討会報告書が指摘する電気通信事業におけるガバナンスの現状


 総務省の考えの出発点としては、次の点といえるでしょう。


電気通信事業は、公益事業としての公共性のほかに、通信という特性に基づく固有の公共性を有している。特に、通信は人間が社会的動物として存在するための根源的役割を果たしており、このため、安心して自由闊達な通信を可能とするための通信の秘密の保護は、近代社会の基本的人権の一つとして確立されてきている前掲報告書21頁(太字下線は筆者加筆)


 このほかに、災害発生時等の非常事態において、国のインフラとして中枢神経的機能を果たす大切なものであることも掲げています。


 要するに、「通信ってなくなったら今の時代もうやばいよね」ということが前提としてあり、「しかもサイバー攻撃とかあるし、電気通信事業者って本当に高度で大切な役割だから、ほかの人が想像するよりもっとしっかりしないとだめだよね」という考えがあると思われます。


 現在の電気通信事業法でも、伝送路設備を含む電気通信回線設備を設置する「回線設置事業者」、有料で利用者 100 万人以上の電気通信サー ビスを提供している「有料大規模事業者」等に対し、


  1. 「技術基準」への適合維持義務(電気通信事業法§41)
  2. 技術基準適合の「自己確認」とその結果の届出義務(電気通信事業法§42)
  3. 「管理規程」の策定・届出義務(電気通信事業法§44)
  4. 「電気通信設備統括管理者」の選任・届出義務(電気通信事業法§44の3)


 を課していることを取り上げています(前掲報告書23頁)。


 

前掲報告書24頁から引用


 まぁでも割とこの辺の制度は、他の業法でも一般的にあるような気がします。

電気通信事業ガバナンス検討会が考える課題


 電気通信事業ガバナンス検討会が掲げる課題は、次のとおりです(前掲報告書63頁)。


  • 情報の漏えい・不適正な取扱い等や電気通信サービスの停止のリスクへの対応
  • 電気通信事業におけるリスク対策の必要性
  • 情報の適正な取扱 いや電気通信サービス提供等に関する利用者等への情報提供


 これらは、個人的法益、社会的法益、国家的法益を保護するために対策が必要である旨を述べています。


 しかし、どうやら本年1月14日には経済団体等から強い反対があったために、そこまで強い規制は施さないとの結論に至ったようです(参考として、讀賣新聞オンライン「サイト閲覧履歴提供、本人同意の義務化は見送りへ…IT企業規制強化で法改正案」(https://www.yomiuri.co.jp/economy/20220218-OYT1T50213/)閲覧日:2022年3月7日)。


今回の検討については、最終局面のところで経済団体等からの強い反対があったという 経緯があり、当初の想定よりも大幅に後退する取りまとめ案になってしまったという点が 残念であると思います。
電気通信事業ガバナンス検討会(第16回)議事録19頁から引用

電気通信事業法改正案の内容


 以上のように、経済団体等から反対があったことも踏まえて、次のとおりざっくり大枠を作り、具体的内容については経済団体等と協議していく旨が報道されています。


 改正のポイントは、次のとおりです。


  • 情報通信インフラの提供確保
  • 安心・安全で信頼できる通信 サービス・ネットワークの確保
  • 電気通信市場を巡る動向に 応じた公正な競争環境の整備

情報通信インフラの提供確保


 一定のブロードバンドサービスを基礎的電気通信役務(ユニバーサル サービス)に位置付け、不採算地域におけるブロードバンドサービスの安定した提供を確保するための 交付金制度を創設するようです。


 また、基礎的電気通信役務に該当するサービスには、契約約款の作成・ 届出義務、業務区域での役務提供義務等を課すとしています(前掲総務省概要)。


 


安心・安全で信頼できる通信 サービス・ネットワークの確保


 前掲総務省概要によれば、大規模な事業者が取得する利用者情報について適正な取扱いを義務付け、また、事業者が利用者に関する情報を第三者に送信させようとする場合、利用者に確認の機会を付与するとのことです。


 なお報道によると、大規模な事業者とは、SNS・検索サービス事業者(具体的には、利用者数1,000万人以上の事業者に限るようです。)とのことです。


時事通信「【図解】ネット利用者情報、規制後退=事業者に配慮、保護強化へ課題―総務省」(https://news.yahoo.co.jp/articles/5a668937be859460d02491736b8136e83cb4de9a)から引用(閲覧日:2022年2月19日)

電気通信市場を巡る動向に 応じた公正な競争環境の整備


 最後は携帯大手3社等に対し、次の措置を講ずるとのことです。


  • 携帯大手3社・NTT東・西の指定設備を用いた役務に係るMVNO等との協議の適正化を図るため、役務の提供義務及び料金算定方法等の提示義務を課す。
  • 加入者回線の占有率(50%)を算定する区域を都道府県から各事業者 の業務区域(例えばNTT東は東日本、NTT西は西日本)へ見直す。

まとめ

まとめ


 本来、総務省(電気通信事業ガバナンス検討会)としては、利用者の情報を提供するときにその同意を得なければならないという措置を講じたかったようです。


 もっともこれが、個人情報保護法との観点で検討不足であるということや、過大規制であるなどと経済団体等からの反対を受けることとなったとされています。


 今後は、経済団体等と協議する旨を公にしていますから、法改正が仮に可決されたとしても、流動的に制度変化が生じる可能性があるので、注意が必要といえるでしょう。

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