有利誤認?正当な表示?②
前回のブログで、有利誤認が争われている裁判例を紹介しました。今回は、その判決の部分、つまり裁判所の判断について触れていきたいと思います。
判決は、事業者側に軍配を上げる形のものとなっており、広告作成担当者や広告審査担当者には有意義であると思われ、また、広告業界(特に法律学会)では議論が再燃するのではなかろうかと思います。
<参考>
消費者庁「消費者被害防止ネットワーク東海とファビウス株式会社との間の訴訟に関する控訴審判決について」(https://www.caa.go.jp/notice/entry/027796/)
消費者被害防止ネットワーク東海「ファビウス株式会社(旧株式会社メディアハーツ)に対する差止請求訴訟の経過」(https://cnt.or.jp/topics/post-3325.html)
ファビウス「定期通販広告に対する差止請求訴訟(控訴審)に関する当社勝訴判決のお知らせ」(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000026.000022159.html)
通販新聞「名古屋高裁、ファビウスが二審も勝訴、継続条件「容易に認識」」(https://www.tsuhanshimbun.com/products/article_detail.php?product_id=5967)
この表示が景品表示法第30条第1項第2号にいう有利誤認か否か
景品表示法第30条第1項第2号にいう「取引の相手方に著しく有利であると誤認される表示」とは、健全な常識を備えた一般消費者の認識を基準とする
裁判所はまず、この表示(前回のブログをご参照ください。)が景品表示法第30条第1項第2号にいう有利誤認に当たるか否かを争点とし、判断しています。
理由は、これに該当すれば原告の差止請求は可能であると判断することができるからです。裏を返せば、これに該当しなければ、原告の請求には理由がないということになります。
第三十条 ・・・適格消費者団体は、事業者が、不特定かつ多数の一般消費者に対して次の各号に掲げる行為を現に行い又は行うおそれがあるときは、当該事業者に対し、当該行為の停止若しくは予防又は当該行為が当該各号に規定する表示をしたものである旨の周知その他の当該行為の停止若しくは予防に必要な措置をとることを請求することができる。
一 (略)
二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると誤認される表示をすること。
そして、裁判所は判決文の中で、極めて重要な判断基準を述べています。
実際のものよりも「取引の相手方に著しく有利であると誤認される表示」(景表法30条1項2号)とは、健全な常識を備えた一般消費者の認識を基準として、社会一般に許容される誇張の程度を越えて商品等の有利性があると、誤って認識される表示をいうと解する。(太字下線筆者加筆)
そして、当該表示から一般消費者に認識される意味内容を検討するに当たっては、当該表示がインターネット上に存在しパソコン等の画面において表示される場合には、文言や文字等の体裁のみならず、画面の遷移等も含め、当該表示を総合的に考慮して判断すべきと述べています。
当てはめ
裁判所は、まずは次の点を指摘しています。
- 大きく桃色文字で記載された630円という表示が目立つが、その真横には桃色背景に白色・黄色文字といった目立つ形で「お届け周期変更OK」という定期購入であることをうかがわせる記載があること。
- さらにその直下に、この商品が定期購入であって初回の支払金額がお得であることを示す記載があること。
- 申込みボタンをクリックする箇所の真下には、「初回を含め最低4回(4か月)以上のご継続がお申込みの条件です。」と記載されていること。
これらを総合すると、この契約がどのような契約であるかについて関心を持つ一般消費者であれば、通常は目を通すと想定されることを述べています。
そして、「健全な常識を備えた一般消費者」において、最低4回の継続が必要であることは容易に認識し得ると判断しています。
また、原告が「見落とすだろう」と指摘した点に対しては、この表示の中で繰り返し4階も表示されており、文字の大きさ等が異なるとしても、この商品に関心を有する「健全な常識を備えた一般消費者」であれば、目を通すのが通常であって、これらの記載を認識することなく「630円」のみに着目して申込みボタンをクリックすることはおよそ想定できないと説明し、原告の主張を退けています。
健全な常識を備えた一般消費者
東京高裁判平成16.10.29判時1904号128頁
広告などの表示が景品表示法上の有利誤認に当たるかは、健全な常識を備えた一般消費者の認識を基準として、社会一般に許容される誇張の程度を越えて商品等の有利性があると、誤って認識される表示をいうとされています(上述判旨。なお個人的には、景品表示法§5と同§30にいう有利誤認は、性質が異なるのではないかという検討の余地もあると思います。すなわち、事業者が禁止される有利誤認と、適格消費者団体が差止請求できる有利誤認は、その要件や判断基準が異なる可能性があるのではないかという論点です。あくまで個人的見解ですが)。
健全な常識を備えた一般消費者とは、いったいどのような消費者なのでしょうか。
これについては、表題の判例が「健全な常識を備えた一般消費者」という文言を使っているので、参考になると思われます。
事例としては、次のようなものです。すなわち、被告である家電販売会社が店舗において「当店は●●よりも安くします」「当店は●●よりお安くしてます」等の文句を記した看板を店舗の外壁に掲げたりポスターを店舗内に多数掲示したりしたことが、景品表示法上の有利誤認か否かが争われたというものです。
この点について控訴審判旨では、次のように述べています。
「一般に広告表示においてはある程度の誇張や単純化が行われる傾向があり,健全な常識を備えた一般消費者もそのことを認識しているのであるから,価格の安さを訴求する本件各表示に接した一般消費者も,かかる認識を背景に本件各表示の文言の意味を理解するのであり,そのことを前提にして検討を行うべきものである」(太字下線筆者加筆)
とした上で、被告である家電販売会社が「全商品」といってないことや、広告の設置個所が店舗の外壁、入り口ガラス戸や廊下などであって、個別の商品に付されているものではないことから、次のように判断しています。
このように概括的・包括的内容のものであることからすると,本件各表示に接した消費者は,一般的に,これを価格の安さで知られる●●よりもさらに安く商品を売ろうとする被告の企業姿勢の表明として認識するにとどまるというべきである。また,一般消費者の中には,それよりもやや具体的な期待,例えば,被告の店頭表示価格は同一商品に関する●●の店頭表示価格よりも安いという期待や,●●の店頭表示価格又は値引後価格が被告のそれよりも安いときに,その旨を告げて被告の店員と交渉すれば,●●の店頭表示価格又は値引後価格よりもさらに安い値引後価格を引き出せるという期待を抱く者の割合も少なくないと考えられる」
ところが「取扱品目の全てについて競合他店における同一商品の店頭表示価格を日々調査をするのは不可能であることは一般消費者にとってそれほど理解困難なことではな」く,「本件各表示に接する一般消費者の中には,被告の店舗では全商品について必ず●●の店舗よりも安く買えるという確定的な認識を抱くには至らない者も,相当多数存在するものと考えられる」
「そのような確定的な認識を抱く消費者層が存在する可能性があるとしても,それは未だ 『一般消費者』の認識とはいいがたいもので ある」
(参考:石井美緒「品質誤認惹起表示の判断要素と規制目的に関する序論的考察」9頁参照)
したがって、消費者には健全な消費者とそ れ以外の消費者がいることものの、そのことをもって直ちに有利誤認表示にあたらないというのです。
以上のケースを見てみると、広告表示に書いてあるからといって「ほら書いてあるんだからやらんかい!!」というのは、いわば難癖に近いものであって、そのような者は「健全な常識を備えた一般消費者」ということとなるでしょう。
控訴・上告
控訴の結果
適格消費者団体は、名古屋地方裁判所のこの判決を不服として、名古屋高等裁判所に控訴しましたが、昨年9月29日に適格消費者団体の控訴を棄却しました。判決書はインターネット上からは見つけられませんでしたが、報道によればほぼ同旨であり、しかも「この部分にすら全く目を通さない消費者がいるとすれば、それはもはや保護に値するものとは言い難い。初回だけの契約ではないことを容易に理解する」と踏み込んで判断したとされています(通販新聞「ファビウス「大きな損害」【Cネット東海差止訴訟の影響①】 適格団体の過度な要求「歯止めに期待」」(https://www.tsuhanshimbun.com/products/article_detail.php?product_id=5977))。
また、適格消費者団体はこの控訴審判決を不服として、上告することを予定しているとのことですので、最高裁でどのように処理されるかは、注目に値します(日流ウェブ「名古屋高裁/ファビウス側が勝訴/定期購入表示の差止請求(2021年10月14日号)」(https://www.bci.co.jp/netkeizai/article/9613))。
まとめ
広告表示規制について
広告表示の規制については、過去に当ブログでもアフィリエイト広告規制やそのほかの規制についても触れています。
国の方針かはわかりませんが、最近の法規制は消費者保護に傾倒しているきらいがあるというのが、個人的感覚です。
そのため、事業者としてはそのような法規制に触れないようにするならば、広告活動も委縮せざるを得ないという感触があります。(個人的には「そこまで警戒する必要あるか?」というような状況も散見されたり、そもそも広告表示を行うことすら積極的ではない事業者の方も見受けられるような気がします。あくまで感覚的なものですが。)
しかし広告表示をする上で重要なことは裁判所も指摘するとおり「健全な常識を備えた一般消費者」を基準とした正しい運用だと考えます。
そうすると「インターネットで炎上すると嫌だからやめておこう」という姿勢も、備えあれば憂いなしでよいと思いますし、他方で「ここは勝負所だから法に沿った正しい運用をして勝負に出よう」という広告の仕方もありだと思います。
実際、40歳代までの消費者において、インターネット上の広告による購買意欲の促進は無視できないまでに伸びています。
MarkeZine「購買意欲を促進する広告媒体として最も多く選ばれたのは「テレビCM」/信頼できる媒体は?【サイカ調査】」(https://markezine.jp/article/detail/32860)から引用
まとめ
今回の裁判が上告審で争われるかについては、今後注目したいと思います。広告作成者や広告審査担当者は、目まぐるしく変わる法規制の知識を常に最新バージョンに更新することによって、適切な運用ができ、事業活動に資すると思います。
広告はほぼすべての事業者に関係しますので、困ったときには専門家に意見を聞くなどして、効果的に運用するのがよいでしょう。
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