スタートアップの法務支援の専門家チーム【経済産業省】
本年4月26日、経済産業省は、スタートアップの新市場創出の推進に向け、規制に関する相談対応や各種規制改革制度の活用促進を行うため、専門の弁護士からなる「スタートアップ新市場創出タスクフォース」を創設すると公表しました。
新たな市場創出に取り組む事業者にとって、その新規事業に伴う法規制への対応は極めて困難です。かつ、スタートアップ期ですと資金も潤沢でない場合が多いですから、自ら弁護士に依頼するなども難しく、結果として、法的リスクを抱えたまま走り出すというケースが散見されます。
事業再構築が重要であるとする「2022年中小企業白書・小規模企業白書」からも、 新たな市場創出は、国を挙げての課題であるともいえるでしょう。この事業再構築時にも、新規参入の際の法規制をクリアしなければならない点では同じです。
そこで、経済産業省としては、スタートアップの新市場創出の推進に向け、規制に関する相談対応、グレーゾーン解消制度・新事業特例制度・規制のサンドボックス制度等の規制対応の制度の活用促進を行うため、このような制度を創設すると発表したものと思われます。
ポイントは、スタートアップの新市場創出の推進に向けた、
- 規制に関する相談対応
- グレーゾーン解消制度
- 新事業特例制度
- 規制のサンドボックス制度
です。
経済産業省「企業単位の規制改革について」(https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/)から引用
<参考>
経済産業省
「スタートアップの法務支援を行う専門家チームを創設します」(https://www.meti.go.jp/press/2022/04/20220426005/20220426005.html。以下「概要」といいます。)
「グレーゾーン解消制度・プロジェクト型「規制のサンドボックス」・新事業特例制度」(https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/。以下「制度等」といいます。)
中小企業庁
「2022年版中小企業白書・小規模企業白書をまとめました」(https://www.meti.go.jp/press/2022/04/20220426003/20220426003.html)
総理官邸
「規制のサンドボックス制度」(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/regulatorysandbox.html)
スタートアップ新市場創出タスクフォース
スタートアップ新市場創出タスクフォース構成員
スタートアップ新市場創出タスクフォースの構成員は、次のとおりです。(前掲概要4.から引用)
顧問 武井一浩 西村あさひ法律事務所 弁護士
顧問 増島雅和 森・濱田松本法律事務所 弁護士
- 雨宮美季 AZX総合法律事務所 弁護士
- 大段徹次 一般社団法人Legal Initiative for Startups 弁護士
- 小笠原匡隆 法律事務所ZeLo・外国法共同事業 弁護士
- 落合孝文 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 弁護士
- 金山藍子 三浦法律事務所 弁護士
- 河合健 アンダーソン・毛利・友常法律事務所 外国法共同事業 弁護士
- 殿村桂司 長島・大野・常松法律事務所 弁護士
- 藤井康次郎 西村あさひ法律事務所 弁護士
- 堀天子 森・濱田松本法律事務所 弁護士
ご覧のとおり、名門弁護士事務所の先生方がずらりと並んでいます。
相談の際には、力強い味方となってくれると思われます。
スタートアップ新市場創出タスクフォースの設置期間
スタートアップ新市場創出タスクフォースの設置期間は、令和4年4月から、つまり今月からのようです。そして、1年間を区切りとして、年ごとに構成員を更新するとされています。
新規事業をご検討されている事業者の方々は、このような制度を有効活用すると、スタートアップ期の法的論点を整理することができると思われます。
個人的な意見としては、法的論点を整理してから事業に臨むと、事業規模が拡大した際に、大幅な体制変更等をする手間が省けるのではないかと考えています。
例えば、事前に許認可等を取得しなければならない事業であるものの、その調査が不足していたために許認可なしで事業を行ってしまった場合には、事後対応が大変です。また、そのための体制整備に費やす資金が調っていれば良いですが、必ずしもそうとは限りませんから、その資金の工面という点でも、あらかじめ整理していると目途が立ちます。
新規事業を展開する際には、このような制度は有効であると考えています。
スタートアップ新市場創出タスクフォースの業務内容
スタートアップ新市場創出タスクフォースの業務内容は、次のとおりとされています。
- スタートアップが新たな事業に挑戦する際の規制に関して、次の制度の活用に向けた法律上の論点整理等の提示
ア グレーゾーン解消制度
イ 新事業特例制度
ウ 規制のサンドボックス制度
- スタートアップ新市場創出タスクフォースでの審議
申し込み方法は、前掲制度等(←クリックすると当該ページに飛びます。)の「スタートアップ新市場創出タスクフォース」に申込票があります。
前掲制度等から引用(赤枠筆者加筆)
次に、上記アからウの制度がどのようなものか、概要を見てみましょう。
スタートアップ新市場創出タスクフォースに関する制度
グレーゾーン解消制度
グレーゾーン解消制度とは、産業競争力強化法(平成25年法律第98号)第7条に基づく制度であって、その内容は、事業者が、現行の規制の適用範囲が不明確な場合においても、安心して新事業活動を行い得るよう、具体的な事業計画に即して、あらかじめ規制の適用の有無を確認できる制度です。
例えばこちらのページ(←クリックすると消費者庁のページに飛びます。)には、グレーゾーン解消制度に関する過去の消費者庁の回答があります。
こちらをご覧いただいたとおり、実際に行おうとする事業の内容が具体的であり、その事業が、この条文に該当するか否かという照会をし、監督官庁が回答するというものです。
回答によって、その条文には該当しないという回答を得れば、安心して事業展開に移れるというものです。ただし、多くの回答書には、「この回答は、裁判所の判断を拘束しない。」という但書がありますので、裁判所が真逆の理由を述べる可能性もあります。もっとも、この点はほとんど考慮しなくてよいと思います。
新事業特例制度
新事業特例制度とは、新事業活動を行おうとする事業者が、安全性等の確保を条件として、規制の特例措置を提案し、企業単位で特例を認める制度です。
最近では、電動キックボードに関する特例措置の要望書が出されています。(こちらをクリックすると、警視庁のページに飛びます。)
このように、新規事業上、安全性等を確保すれば、一応法規制の趣旨目的は外れないという場合には、有用です。
規制のサンドボックス
規制のサンドボックス制度とは、AI、IoT、ブロックチェーン等の革新的な技術やビジネスモデルの実用化の可能性を検証し、実証により得られたデータを用いて規制の見直しに繋げる制度です。
まず事業の実証を行い、規制改革や事業化につなげたいという理由から、用いられるケースがあります。
これは、どの産業分野に関連するプロジェクトでも応募可能とされています。
流れとしては、おおむね下図のとおりです。
内閣官房「新技術等実証制度(プロジェクト型規 制のサンドボックス制度)について」(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/underlyinglaw/sandboximage827.pdf)5頁から引用
新規事業に可能性を見出しており、かつ、前例がない事業を行おうとする事業者にとっては、不可欠な制度といえるでしょう。
まとめ
スタートアップ期には検討するのが有意義
おそらく国は、この度の制度を活用し、新たな経済活動に拍車をかけたいという狙いがあると思われます。
しかし、錯綜する法規制の前に、新規事業を検討してもそれを実行に移すことは、現代ではなかなか難しいところです。
そこでこのような制度を確立させ、もって活発な経済を創り、経済活動を活発化させたいという話だと思います。
新規事業を検討中の事業者の方にとっては、チャンスでもありますので、このような制度の活用も、ご検討されるとよいと思います。
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