新しい資本主義?
令和3年10月15日、新しい資本主義実現本部が設置されて以降、新しい資本主義実現会議が本年5月20日までで計7回行われました。
第7回(本年5月20日)では論点案が提出され、主な論点は「人への投資」ではないかということが検討資料として挙げられています。
新しい資本主義は、どのように実現されるのでしょうか?
<参考>
内閣官房「新しい資本主義実現会議(第7回)」(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai7/gijisidai.html)
新しい資本主義の実現に向けて
新しい資本主義に必要な「教育訓練」
第1の論点として、教育訓練を受けた従業員の労働生産性や平均賃金が上昇する効果があり、これが新しい資本主義と成長戦略の鍵ではないかと唱えられています(前掲内閣官房資料2)。
これはどういうことかというと、イギリスの経済学者の分析によれば、産業内で教育訓練を受けた従業員の割合が1%ポイント増加すると、同じ産業内で労働者一人当たりの生産性が0.6%、また、平均賃金が0.35%上昇する効果があるとされています。
前掲内閣官房資料1の4頁
なぜこれを政策として対応するのが必要かという点については、教育や能力開発は外部による影響が大きく、個人の選択に任せておくと、過少投資になりがちという点が掲げられています(前掲内閣官房資料13)。
つまり、「教育訓練が大事って言ってもどうせみんな自主的にはやらないから」という、ある意味最もな理由に基づく政策案といえるかもしれません。
逆をいえば、これからの時代は(政策を活用するかは別として)自主的に教育訓練を行う時代が到来し、そうするとこれをする人としない人の格差が生じるのかなぁというような個人的感想を抱いています。
そうすると、教育訓練を受けることに消極的な人に対して、積極的にその意義をマーケティングする必要があるのではなかろうかと考えており、実際にこれを政策として制度化しても、そのマーケティングの部分が欠けると、有意義には実施できないような気もします。
なお、特にIT人材が不足しているから、新しい資本主義の実現のための教育訓練やスキルアップは、IT人材の強化に重点を置くべきではないかとも指摘されています(前掲内閣官房資料2)。
前掲内閣官房資料1の6頁から引用
新しい資本主義の実現のためのキャリアコンサルティング
新しい資本主義に関する政策的整備として、キャリコンサルティングがその論点案に挙げられています。
キャリアコンサルティングを行った事業所に対して、その効果をアンケートしたところ、労働者の仕事の意欲が高まったとの回答が53%、自己啓発する労働者が増えたとの回答が37%に至っているようです。
前掲内閣官房資料1の5頁
ちなみにここにいうキャリアコンサルティングとは、「労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うこと」と定義されています(同頁)。
キャリアコンサルタントは平成2(2016)年に職業能力開発促進法(昭和44年法律第64号)が改正され、新たな国家資格となったことで話題になりました。これにより、キャリアコンサルタントでない者は、キャリアコンサルタント又はこれに紛らわしい名称を用いてはならない(同法§30の28)という名称独占となりました。
ところで、今回の論点案が協議され、実際に「キャリアコンサルティングを受ける場を政策的に整備しよう!」となった場合には、キャリアコンサルティング業界が活発化することが予想され、そうすると、だいたいそのような変革には悪徳業者が出現するのがもはや通例です。
その際には、コンサルティング業者はキャリアコンサルタントでないにもかかわらず「キャリアコンサルタント」と名乗らないように、他方、一般消費者はキャリアコンサルタントではない者を見極めるなどの予防策が必要でしょう。
新しい資本主義の実現のための副業解禁
また、新しい資本主義の実現のためには副業解禁が必要ではないかという点が、論点案として掲げられています。
特に従業員1,000人以上の大企業では副業解禁が遅れていることが指摘されています。
前掲内閣官房資料1の9頁から引用
他方、副業の効果としては、次の点が指摘されています。
- 副業を経てから起業した方が、その企業が失敗する確率が低くなる。
- 副業を受け入れた企業からは人材不足が解消できたなどの声もある。
前掲内閣官房資料1の13頁から引用
このことは前々から政府主体で情報発信されており、これが政策化される確率は結構高いと見ています。
ただしそうすると、企業側としては労務管理、ノウハウ流出などの予防策を講ずる必要がありますから、その点をどのように調整するかが重要ではないかと考えています。
単に契約書を締結するといったレベルの話にとどまらず、副業の際のガイドラインや、副業した際に生じてしまった不法行為に関する判例などの蓄積など、風土形成に一定の期間を要するような気がします。