新規事業と弁護士法72条

query_builder 2022/07/15
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 最近、弁護士法72条に関するグレーゾーン解消制度の回答が散見されています。


  • AIによる契約書等審査サービスの提供
  • 法曹無資格者による契約書等審査サービスの提供


 この両照会については、いささか波紋を呼んでいます。その理由は、次のとおりです。


  1. 既存のリーガルテック業界への影響
  2. 約1か月間に4件、弁護士法72条に対する照会があることへの違和感


 Twitterなどは敏感に反応しており、「なぜこの短期間で?」とか「リーガルテックへの影響は?」など、様々な意見が飛び交っています。


 今回はちょっとこの件に触れてみようと思います。


<参考>

法務省「産業競争力強化法第7条2項の規定に基づく回答について」(https://www.moj.go.jp/housei/shihouseido/housei10_00134.html

法務省「グループ企業間の法律事務の取扱いと弁護士法第72条の関係について」(https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/284573/www.kantei.go.jp/jp/singi/sihou/kentoukai/seido/dai24/24siryou_homu.pdf

経済産業省「グレーゾーン解消制度の活用事例」(https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/result/gray_zone.html

弁護士法72条に関する問題

弁護士法72条とは?


 弁護士法72条の条文を見てみましょう。


(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。


 表題のとおり、「弁護士でない人は法律事務を取り扱ってはダメですよ」ということが法律で定められています。


 そして、これに違反した場合の刑事罰が、次の条文です。


(非弁護士との提携等の罪)
第七十七条 次の各号のいずれかに該当する者は、二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
一~二 (略)
三 第七十二条の規定に違反した者
四 (略)


 「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」は比較的重い罪です。どれくらい重い罪かというと、わいせつ物頒布等の罪(二年以下の懲役、250万円以下の罰金。刑法§175)や重婚の罪(2年以下の懲役。刑法§184)と同等です。

弁護士法72条の条文上の法的問題点とは?


 弁護士法72条の条文上の法的問題点は、一般に、次の点が議論されることが多いようです。


  • 「報酬を得る目的」とは?
  • 「一般の法律事件」とは?


 このうち、後者の「一般の法律事件」とは、特に「事件」って何を指すのか?がよく問題となります。すなわち、「法律に関するあらゆる出来事(限りなく幅広い出来事)」を指すのか、または、「法律に関する出来事の中でも、争いがある出来事(限定的な出来事)」を指すのかという問題です。


 前者を「事件性不要説」、後者を「事件性必要説」と区別して論じられることが多いです。

事件性不要説


 弁護士法72条にいう「一般の法律事件」とは、「法律に関するあらゆる出来事(限りなく幅広い出来事)」を指すとする論です。


 例えば、大阪高等裁判所は、次のように述べています。


 思うに、弁護士が、かかる厳重な規制の下に在るのは、その重大な使命、職責にあるからであつて、しかも右職務の性質にかんがみると、弁護士の職務の範囲は、特に他の法律で制限されていない限り、広く法律事件に関する法律事務全般に亘るものと云うべく、しかも、それは、当事者その他の関係人が自らこれを行ない得ると否と、現にそれが事件として裁判所に係属中のものであると否と、将来又法律上の効果の発生、変更、消滅を伴う事項であると或いは単に職権発動を促すに過ぎないものであるとを問わず、卑しくも前記使命を達成するためのものである以上、すべてこれに包含されるものと解するのが相当である。
 そこで弁護士法七二条の弁護士でない者が取り扱うことを禁止されている事項と同法三条一項所定の弁護士の職務とを比照すると、その文言に多少の相違はあるが弁護士法七二条本文制定の目的は、法律的知識についてなんらの保証なく、かつ、法の規制を受けない者に、報酬を得る目的で、自由に法律事務を取り扱うことを許すとすれば、その結果、弁護士の品位を傷つける等の事態を惹き起す虞れがあるばかりでなく、それ以上に、多くの人々の法的生活を不安定に陥らせ、重大な社会混乱を招来する危険性なしとしないので、これらを防止するため、弁護士の職務の範囲内の事項につき非弁護士にその取扱を業とすることを認めないことにあることを考慮すると、両者の内容は全く同一であり、同法七二条本文で弁護士でない者が取り扱うことを禁止されている事項は、弁護士の職務に属するもの総てに亘るものと云わなければならない。
(大阪高判昭和43年2月19日)


 このほか、『条解弁護士法第4版』(弘文堂・日本弁護士連合会)も、事件性は不要と唱えています。


 理由は、概ね次のとおりとされています(Wikipediaを参照していますが、概ねまとまっています)。


  • 「事件性」という不明確な要件を持ち込むことは、処罰範囲を曖昧にするため、罪刑法定主義(一般に、犯罪として処罰するためには、その処罰が人生に与える重大性を鑑みて、あらかじめ法律により明確に定めておかなければならないという近代刑法上の基本原則をいいます。)に反する。
  • 立法の沿革から見て、本条は非弁護士の活動一切を禁止しようとする立法目的に立って「一般の法律事件」という包括的表現を採用しており、「事件性」という要件は不要である(浦和地判平成6年5月13日判例時報1501号52頁)
  • 法律事務は国民の権利義務にかかわるもので、それに業として携わる者には特に高度の法的能力が要求される。
  • 弁護士は弁護士法の規制を受け、高度な倫理性が担保されている

事件性必要説


 弁護士法72条にいう「一般の法律事件」とは、「法律に関する出来事の中でも、争いがある出来事(限定的な出来事)」を指すとする論です。


 例えば、最高裁判所は、次のように述べています。


 被告人らは,多数の賃借人が存在する本件ビルを解体するため全賃借人の立ち退きの実現を図るという業務を,報酬と立ち退き料等の経費を割合を明示することなく一括して受領し受託したものであるところ,このような業務は,賃貸借契約期間中で,現にそれぞれの業務を行っており,立ち退く意向を有していなかった賃借人らに対し,専ら賃貸人側の都合で,同契約の合意解除と明渡しの実現を図るべく交渉するというものであって,立ち退き合意の成否,立ち退きの時期,立ち退き料の額をめぐって交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るものであったことは明らかであり,弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものであったというべきである。
 そして,被告人らは,報酬を得る目的で,業として,上記のような事件に関し,賃借人らとの間に生ずる法的紛議を解決するための法律事務の委託を受けて,前記のように賃借人らに不安や不快感を与えるような振る舞いもしながら,これを取り扱ったのであり,被告人らの行為につき弁護士法72条違反の罪の成立を認めた原判断は相当である。
(最判平成22年7月20日刑集64巻5号793頁)


 また、法務省は、「グループ企業間の法律事務の取扱いと弁護士法第72条の関係について」と題する文書の中で、次のように述べています。


 法第72条本文の「その他一般の法律事件」については,いわゆる「事 件性不要説」と 「事件性必要説」とが対立しているが,事件性必要説が , 相当と考える。


 理由は、概ね次のとおりとされています(Wikipediaを参照していますが、概ねまとまっています)。


  • 弁護士法72条の「法律事件に関して」と定める文言は、特に事件性を要求する趣旨と解すべきであり、これを無視することは罪刑法定主義に反する。
  • 紛争性のない法律事務までをも弁護士の独占業務と解するのは、商取引における契約交渉なども弁護士の独占業務と考えることになり妥当でない。
  • すべての法律事務が弁護士の独占業務だとすると、同法違反による処罰範囲が広くなりすぎる。

弁護士法72条とグレーゾーン解消制度

弁護士法72条とリーガルテック


 リーガルテックとは、一般に、法律業務や手続にIT技術やAIを活用して新たな価値や仕組みを提供するものと定義されることが多いようです。


 特に、契約書をAIに審査(という言葉が正確であるかにも争いがありますが・・・。)させることにより、弁護士の多大な業務の削減に資するというサービスが繁盛しています。


 ところが、本年6月6日、新事業活動に関する確認の求めに対する法務省の回答が、話題を呼びました(回答書はこちら。法務省HPに飛びます。)。


 ざっくり言うと、契約書をアップロードして法的に有利不利の審査結果を表示するというAI契約審査サービスの利用は、弁護士法第72条本文に違反すると評価される可能性があると考えられるというものです。


 ただしこの回答書は、次のように述べています。


 本件サービスを利用して法務審査を受ける契約書に係る契約は、その目的、 本件サービスを利用する者(ユーザー)と相手方との関係、契約に至る経緯やその背景事情 等の点において様々であり、こうした個別の具体的事情によっては、本件サービスが、弁護士法第72条本文に規定する「その他一般の法律事件」に関するものと評価される可能性がないとはいえない。


 この記載からは「その他一般の法律事件」に関するものと評価されない可能性もあると読み取ることができ、評価されない場合については何ら述べてはおらず、このような場合については、「その他一般の法律事件」に該当しないから弁護士法72条に違反しないという結論になるものと思われます。


 しかしながらこの評価はあまりに曖昧であって、かねてより問題点として挙げられ続けていました。今後のリーガルテック業界については、おそらくあまり影響は大きくはないと思いますが、注目です。

弁護士法72条と法曹無資格者による契約書審査


 これはそもそも照会などするまでもなくアウトとわかるはずですが、照会がなされています。


 「照会者が新たに設立する株式会社は、法曹資格を有しない者による契約書のチェックサービスを有償で行うことを予定している。」


 なお、ここにいう「法曹資格」とは一般に、弁護士、検察官、裁判官の三者を指します。

 

 ちなみになぜかこの照会については、ご丁寧に照会書まで公表されています(照会書はこちら。法務省HPに飛びます。)。

まとめ

まとめ


 私の立場としては、法律問題は普通に弁護士にご依頼されるのがベストだという考え方です。なぜなら、司法試験を合格し、一年間の司法修習を経ているからです。


 このとき「安価である」ことを理由に、弁護士以外の方にご依頼されるのは、絶対にお勧めしません。いずれトラブルが生じ、結局費用がかさむことも普通にあるからです。


 これとは別に、ご依頼内容によって、その人の専門分野や経験などを決め手にされる場合には、その方にご依頼するのがよいでしょう(もちろん、有資格者でないと後々トラブルに巻き込まれますので、その辺を前提として。)。


 一番大事なのは、専門家の業際争いに国民や市民が巻き込まれて利益保護に欠けないように、力を合わせて取り組むのがよいのではないかぁと思ったりする今日この頃です。

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