当事務所より|本日発表したプレスリリースについて
本日、当事務所のプレスリリースを公表しました。新たな取り組みを開始することとなりましたので、これについて少し述べようと思います。
プレスリリースについて
なぜこれを始めるか
本日、公表されたプレスリリースは、かねてより取り組んでみたかったことの一つです。本件の協力依頼を快諾してくださった落語家の柳亭市若氏には、この場をお借りして感謝申し上げます。
これは純粋な行政書士の業務ではありませんが、行政書士の目的が改正され、行政に関する手続の円滑な実施に寄与するとともに、国民の利便に資し、もって国民の権利利益の実現に資することとなったことからすれば、このような活動も目的からは外れていないだろうと考えています。
さて、なぜこの取り組みを始めようかと思った点でありますが、結論から申しますと、子どもたちの環境が大幅に変わっており、これに大人たちが付けこむというケースが増えてきていると感じたためです。我々が子どもの頃とは時代が変わり、子どもが、自身で、最低限の防衛策を知らなければならない時代となっています。今回の取り組みでは、このような消費者被害を少しでも防止することができればということから、この取り組みを始めようと思った次第であります。
子どもたちの消費者被害について
消費者白書から見る子どもたちの被害件数
実際に子どもたちの消費者被害は増えているのか?令和3年版の消費者白書を見てみました。
消費者庁「令和3年版消費者白書全文」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/assets/2021_whitepaper_all.pdf)19頁より引用
まず、消費生活相談自体の件数です。2004年をピークに減少しており、最近ではほぼ横ばいであることがわかります。次に、消費生活相談の年齢を3区分にしたものを見てみましょう。
消費者庁「令和3年版消費者白書全文」22頁より引用
2020年では全体の0.8%の15歳未満の子どもが(実際には法定代理人を通してかもしれませんが)、消費生活相談をしていることがわかります。また、2018年から0.2%ずつ増加していることも明らかであります。もっとも、パーセンテージについては分母の違いもありますから、純粋に増加傾向にあるとは言い切ることはできないでしょう。しかし、ある一定の割合で子どもたちが何らかの消費者被害に合っていることは否定することができません。
子どもたちの消費生活相談の内容
15歳から19歳までの子どもたちの消費生活相談の内容は、大きく分けて2つとなります。一つはインターネット関連の相談、もう一つは美容に関する相談です。
子どもたちのSNSに起因する被害について
SNSに起因する被害児童の数
消費生活相談は、金銭トラブルなどいわゆる民事の部分です。他方、刑事事件(児童買春、わいせつなど)の被害児童数も、少なくありません。
2011年から右肩上がり、2020年は若干の落ち込みがありました。コロナウィルスにより刑事事件のうち街頭犯罪など犯罪発生自体が減少したと観察されていることもありますから、コロナウィルスの流行の影響かもしれません(街頭犯罪の見解について、最高裁判所「裁判の迅速化に係る検証に関する検討会(第64回)開催結果概要」の6頁を参照(https://www.courts.go.jp/saikosai/vc-files/saikosai/2021/809038.pdf))。いずれにせよ、徐々に件数が増えていることがわかります。
SNSに起因する被害児童のアクセス手段
インターネットによる被害は、刑事、民事を問わずインターネットにアクセスすることとなります。それでは、子どもたちはどのようなツールを使ってアクセスしているのでしょうか。
明らかに、スマートフォンがダントツで、かつ、年々件数を増やしています。なお、途中で、携帯電話とスマートフォンを統合させたものと思われます。スマートフォンの特徴として、親権者がスマートフォンの使い方を細部まで観察することができないということがあります。そのため、子どもたちが親の監視が及ばないところで、大人たちによる被害に合ってしまいます。
なお、被害に合った子どもたちのスマートフォンに、フィルタリングがなされていたかについては、ほとんどがなされていないという結果があります。フィルタリングについては、個別具体的な事情があることが想像できます。例えば、子どもがフィルタリングをされることに反発したりするなどです。私が子どもの頃にスマートフォンがあって、アクセス制限などがされたら、確かにいい思いはしないことを想像するに、親としても難しいところでしょう。しかし、実際にフィルタリングがなされていないケースがほとんどという点については、留意が必要です。子どものみならず、親にとっても保護者としてどのように監督するかについて、新しい時代が来ているといえるでしょう。
まとめ
以上をまとめると、子どもたちの消費者被害は増えており、かつ、スマートフォンなどによるインターネット上での被害は顕著であるといえます。この点、我々が子どもの頃にはスマートフォンなどなく、一定の親の監視下が期待できました。しかし現代では、親の監視が及ばないスマートフォンによる被害が急増しており、これに対しては法学、教育その他様々な学問において研究対象となっています。
また、このような事態は歴史上前例がないため、親にとっても新しい時代であるといえます。正しい監督とは何か、どこまで監督すべきか、監督する際の子どもとの関係性など、子育てにおいて従来とは異なる難題を突き付けられていると考えています。
また、このような被害を加えるのは、大人の場合が多く、このように被害を加える大人からどのように子どもたちを守ることができるのかというのが、今回考えたテーマであります。
子どもたちに対する法教育について
小学校学習指導要領における「法に関する教育」
それでは、こうした被害を防ぐためにどういうことができるのか。一つに、学校において法教育を施すという方法があります。しかし、これが正しく行われ、子どもたちが法を認識・整理し、もって消費者被害を防ぐことはできるのでしょうか?法教育については、法務省・株式会社浜銀総合研究所「小学校における法教育の実践状況に関する調査 調査研究報告書(令和2年3月)」(https://www.moj.go.jp/content/001318086.pdf)があります。
現行小学校学習指導要領には、法に関する教育に係る内容が盛り込まれています。これを達成させるために、小学校はどのような取り組みをしているのでしょうか。まず、令和元年度において、裁判官、検察官、弁護士、司法書士等の法律家やその関係機関を外部講師として授業を実施した割合は、回答した6,052の学校のうち37%とされています。
さてこのうち、テーマとなったものは次のとおりです。
前掲法務省「調査研究報告書(令和2年3月)」13頁より引用
消費者教育については1,056件中6件であり、割合にして約0.5%にとどまります。そうすると、消費者被害が右肩上がりに増えているにもかかわらず、これに対する外部人材による法教育というのは、あまり行われていないといえるでしょう。これについて理由はわかりませんが、消費者問題に関連する法律、すなわち消費者関連法は、その時代時代に合わせて頻繁に改正されるため、教育内容を確定させるのが難しく、かつ、教育した後に法改正した場合には、古い情報となってしまうからではないかと考えています。それよりも、比較的普遍的な人権(憲法など)、薬物乱用、職業、仕事などを一般的に解説した方が、子どもたちも混乱しないものと思われます。こういった点に、消費者関連法の教育の難しさがあると、個人的には考えています。
ちなみに余談ですが、行政書士や行政書士会を外部講師として依頼する件数は、非常に少ないようです。
前掲法務省「調査研究報告書(令和2年3月)」16頁より引用
ご覧のとおり、855件中12件であり、約1.4%となっています。
外部人材と連携した授業を実施しなかった理由
外部人材と連携した授業を実施しなかった学校の回答として、次の理由が挙げられています。すなわち、
「外部人材と連携した授業を実施しなかった理由としては,「連携によりどのような授業ができ るのか分からないから」との回答割合が50.2%で最も高く,次いで「連携した授業を行う時 間がないから」が43.6%,「連携先を見つける方法がよく分からないから」の割合が40. 1%となっている。また,「準備や打合せ,手続などが大変だから」が30.5%,「予算がない から」の回答が26.8%と続いている。 平成24年度調査の結果と対比すると17,外部人材との連携に当たり,学校に「余裕がない」 ことは引き続きの課題であることがうかがえるが,本調査の結果からは,連携によりどのよう な授業ができるのかを知りたいというニーズも高い状況にあることがうかがえる。」
(前掲法務省「調査研究報告書(令和2年3月)」27頁より引用)
グラフにすると、次のようになります。
前掲法務省「調査研究報告書(令和2年3月)」27頁より引用
このうち、私が特に注目しているのは、「連絡先を見つける方法がよく分からないから」という点と、「連携する方の人柄や授業の技量が事前に分からず、不安だから」という点です。実際に、教育現場に外部講師を招いて授業を行うことは、一定程度のハードルがあると思われます。このような状況を考えると、プレスリリースなどで新たな取り組みを発信することは、きっかけの一つになるかもしれないと考える次第であります。
落語家との協働について
今回、落語家・柳亭市若と協働して取り組みを行うことになり、再度この場をお借りして感謝申し上げます。テーマとしてはプレスリリースで公表したとおりでありますが、外部人材による法教育というのも、千差万別あっていいのではという思いから、協力をお願いいたしました。
例えば、先に述べた通り、裁判所、検察官、弁護士の方々による授業も行われており、しかもこれは報告書によると大変好評であることが見受けられます。法律家による法教育は当然望ましいものであり、これが広く浸透していけば、これに越したことはないと思います。他方で、このようなもののほか、身近な法律に関する教育を、身近な人が伝えるというのも、あってよいのではないかと考えた次第です。ご存知のとおり落語は古くから伝わる芸であって、その理由は、日常生活に密接に関係している噺から生じる親近感や共感性であるとされています。今回はこれに着目して、学習する方にとって身近な関係という方面から切り込んでいこうという、比較的新しい試みだと思います。正直、効果測定でどのような結果が生じるかも予想できません。しかしながら、物事を学ぶ上で、その方法は一つに限らなくてもよいはずであるし、様々な体験を通して子どもたちの成長がなされることを考えると、落語を通して法教育を行うことも、不合理ではないと考えています。このとき、我々としては、子どもたちがどのようなことを求めているのかに着目して、活動を行いたいという考えであります。
まとめ
今後の活動について
以上のとおり、我々の取り組みが、子どもたちの法教育の一助となれば幸いであります。もっとも、純粋に法教育を施すのであれば、やはり裁判官、検察官、弁護士や司法書士などの法律家を求めるのが筋だと思います。また、報告書によると実際に、弁護士による法教育は学校側の満足度も高いことが報告されています。
それでは、行政書士が行う法教育というのはどのようなものになるでしょうか。この点については、私見によれば、行政手続の観点も織り交ぜたものが提供できるものと考えています。すなわち、行政書士は行政手続の専門家として、様々な行政上の制度や手続に触れる機会が多くあります。私自身も、今まで生きていて全く知らなかった制度に触れる機会は大変多くなりました。このうち、子どもたちに法教育を施す上で、弁護士の先生方などとはちょっと違った視点から、例えば、消費者被害に合った場合、いじめ被害があった場合などの行政上の相談先の紹介や、行政職員の業務の性質上中立性が強いことや、これが故に相談しても解決に至らない場合があること、その際に誰に相談すればよいのか、すなわち弁護士に相談するのか警察に相談するのかなど、純粋な法律に関する教育のほか、このようなことをお伝えするという点が、行政書士ができることではないかと思います。
最終的な目的は、子どもたちが、最低限自己の権利を守ることができることであって、我々の取り組みはそのための手段の一つであるということです。法律論や法解釈なら、間違いなく司法試験を通過している法曹三者を求めるべきでしょう。それらの方とはまたちょっと違った方法で、何か手段はないかと思っている方々のお役に立てれば幸いでございます。なにかお聞きになりたいことがありましたら、お問い合わせいただければ幸いです。
余談ですが本当は、協定の締結の証として、柳亭市若と協定書を持ってツーショット写真でも撮りたかったのですが、コロナ禍でもありますから、それはコロナが明けてからでよいだろうということで、断念しました。みなさまも、コロナ禍で大変かと存じますが、何卒、お体ご自愛くださいませ。
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